第49話

フィオル様とカレイドが公爵領に戻って数日。


意外と寂しいかなと思っていたにもかかわらず、俺は普通に仕事をしていた。


逆に――――――


(むしろ今まで一緒に居すぎたんだなってすごく思う。)


フィオル様といるとドキドキして仕方なかった。


離れてることで逆に落ち着きを感じてしまう。


(いや、好きだし、そりゃ居られるならずっと一緒に居たいけど、あの人って結構俺の気持ちお構いなしにいろいろ恥ずかしいことしてくるから……。)


いつかはなれるかも……なんて思ってたけど全然なれることはなかった。


まぁでも―――――――


(最近は少しスキンシップが控えめだった気がする。やっぱフィオル様に何かあったんだろうか……。)


悪いことではない。


なんとなくそうは思うけど気になるは気になる。


とはいえやはり今気にしても仕方ないことなわけだし―――――――


(とりあえず今は仕事に集中―――――――)


「ほぉ、随分おいしそうだね。」


「あ、いらっしゃいま――――――セ………………」


来客。


そう思って俯きながらいろいろ考えてた俺が顔をあげる。


するとそこには穏やかにほほ笑む見覚えのある人物がいた。


そう、他でもない。


(なんで、この人がここに―――――――だって、今……―――――)


この場にいるはずのない人物。


いや、正しく穿いてはならない人物。


フィオル様がわざわざ会いに行っている人物である公爵様。


ディオルド・エルシオン公爵様が立っていた。


「これはなんていう料理なのかな?」


「あ……。えっと、バッフェルっていう料理です。良ければおひとつどうですか?」


俺はできるだけ同様を見せないよう笑顔をつくる。


そんな俺を見てにっこりと公爵は笑みを浮かべると、大量のコインが入った袋を俺に丁寧に握らせてきた。


「店の者を全部買ったら君の時間を頂けるかな?」


「…………へ?」


突然お金を握らされ、笑顔で問いかけられる問い。


その問いに俺は二つの事を思った。


まず、何故俺の時間が欲しいのだろうという事。


そしてもう一つ―――――――


(親子そろってやること同じかよ!!!)


意外とフィオル様と公爵様はそっくりだと感じたという事だった。





(で、俺はまたのこのこついてきてしまったというね……。)


なんとしても避けなきゃいけない相手だというのに、なんでついてきてしまったんだか。


俺は店の閉め作業をしたのち、公爵様と近くの酒場へとやってきていた。


とりあえず近くに護衛とかはいないようで、それだけが唯一、まだましだと思える現状だ。


で、だ。


「あ、あの、き、貴族の方だろ、あんた。俺に何か?」


とりあえず極力リシアだとバレないよう無礼承知で敬語を使わず喋ってみる。


すると公爵様はフィオル様とそっくりの顔で微笑んだ。


「私の娘を女にした人物に会いたくてね。本当に恋とは面白いと思わないかい?長年男のように生きることを望んでいた娘が突然色気づき、女性のような一人称を使うようになったんだ。娘を変えた人物が気になったのだよ。」


「…………え?」


にっこりとした表情で用件を喋る公爵。


とりあえずフィオル様が俺の事を公爵に適当に話していたのは知っていた。


だけど――――――


(アレ!?一人称!?え!?あ…………まって!!!確かにいつの間にか変わってた…………!?)


よくよく考えればだ。


フィオル様の一人称は”僕”だった。


だから中性的な容姿だけど出会ったときは”男”だと思っていた。


だけど――――――――――――


(いつからだっけ……多分、公爵の物言いから”リオ”と接触しだしてからの話だと思うけど……。)


いつから変わっていたのかわからない。


そう思い悩んでいると公爵様はどうやらありがたい勘違いをしてくれているらしい。


少し困った顔で”自己紹介がまだだったね”と切り出してくれた。


「俺は君の恋人、フィオル・エルシオンの父親のディオルド・エルシオンだ。娘は大事な公爵家の跡取りでね。大事な娘の大切な人間を見定めに来たのさ。」


公爵様は優しく微笑みながら俺に会いに来た目的を語る。


なんとなくだけど、嘘はついていなさそうだ。


(とりあえず俺がリシアだという事は気づいていない……のか?)


とりあえずずっと警戒するわけにもいかない。


俺はそう思い軽く深呼吸をすると公爵様に自己紹介をした。


「俺はリオ……あ、フィオル様のお父様ならため口は良くないよな。えっと、リオです。この街でバッフェルの売り子をして生活して――――ます。」


とりあえずぎこちない感じに敬語で話す。


すると公爵様は微笑みながら俺に手を差し出してきた。


(握手?)


なんとなく挨拶の延長戦で差し出された手を俺は馬鹿正直に握った。


……これがこの後、とんでもない出来事を引き起こすきっかけになると知らずに。

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