第48話

時の流れとは意外と早い。


俺とフィオル様が仲睦まじく言葉を交わすようになってから随分と立った。


計算してみると2か月ほどだ。


その間、カレイド曰く公爵の見張りは来ていたらしい。


だけど全員俺の存在に気づいてはいなかった。


(ま、薬ちゃんと使ってるしなぁ……。)


性別を変える薬はやめても目の色や髪の色を変える薬は使っている。


でも意外とそれらが変わってしまうと人の印象というのはがらりと変わる。


それに加えて熱い地域にいる事で日焼けだってしている。


そこまで黒くはなってないけど、割と色白だった肌はどちらかというと色黒に見えるくらいには焼けていた。


で――――――


「公爵から催促の手紙だね……。正しくは”乗り換えたのか”と書いてあるよ。」


流石に宿などであればともかく、一軒家である俺たちの家に公爵家の者の耳は届かない。


だから作戦会議はいつも俺とバルドの家で行われる。


今日は公爵の使いに手紙を渡されたとフィオル様が語ってくれていた。


「順調ってわけだな。じゃあとりあえず俺たちは段取り通り一度公爵邸に帰ろう。」


カレイドはそう言って立ち上がる。


カレイドの作戦はこうだ。


フィオル様じゃリシアを見つけられなかった。


そして見つけられずに心を病みかけていた時に出会ったリオという少年と恋仲に落ち、身を固めたいと思っているというのを公爵本人に語りに行くというものだ。


何故わざわざ語りに行くのか。


それはフィオル様がちゃんといつかは公爵の座を頂かなければいけないからならしい。


貴族の小難しいことはよくわからないけど、言ってしまうととりあえず俺は愛人ポジションになるわけだから、公爵の目の届かないこの街で今まで通り暮らし続けるのが安全なわけだから特に俺が何かをすることはない。


ちゃんと変わらずに薬を飲むこと。


それぐらいだ。


「一応、用心はしておいてくれよ。バル君は顔の傷がここにきて増えてること、んでもってリオは性別も違えば性格も変わった感じがあるからまぁばれないと思うが、公爵は勘だけは良い。俺らがいない間、へまを踏むなよ?」


カレイドは苦笑いを浮かべながらおれたちの今後の行動についての心配を見せる。


確かに胸を張って”大丈夫”とは言えないけど、まぁいつも通り過ごしていたら大丈夫だと思いたい。


「それじゃあそれぞれの無事を願って最後に酒でも飲みますかね。」


カレイドは笑みを浮かべながらため息を吐くと持ってた高そうな葡萄酒を取り出した。


「「おぉぉぉぉ!!!」」


流石に何不自由ない生活をしているとはいえ、俺とバルドは一般人。


お貴族様の持ってくる良いお酒なんて飲めるのが奇跡なレベルだ。


「あ……フィオルさんは今日も飲まないんですか?」


「あぁ、私は遠慮しておくよ。水を頂けるかな。」


バルドと俺がぶどう酒に目を輝かせている。


そんな光景を見ていたフィオル様にバルドが問いかけるとフィオル様は笑顔で答えた。


でも――――――


(やっぱり最近、お腹の調子よくないんだろうか……。)


特に痛がる素振りは見てないけど、フィオル様は最近よくお腹をさすっている。


それがひどく気になるけど、一度聞いた時に悪いことなんて何もないと笑みを帰されてしまった。


そんな返しをされてしまってはそれ以上は問いかけられなかった。


(まぁ、本当に悪かったら公爵邸に帰った時に主治医にでも見てもらう……よな?)


フィオル様ここ最近特に機嫌がいい。


その起源の良さに水を差してまで問いかける事ではないと思い、俺は気になる気持ちを押し殺した。


「そうだ、リオ。次に会ったときに聞いてほしい話があるんだ。公爵邸から戻ったら、聞いてくれるかい?」


穏やかにほほ笑みながら問いかけてくるフィオル様。


その笑みがとてもひどく美しい。


(この人の美しさは本当にとどまるところを知らないよな。)


自分が割と顔立ちがいいだなんて言っていることが恥ずかしくなるくらいフィオル様は美しい。


そんなことを思いながら俺は頷いた。


…………この時の俺はまだ、知る由もなかった。


フィオル様の話を聞ける日がもう、二度とこないかもしれないことを――――――――。



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