第47話
フィオル様にとんでもない愛の告白をされ、一人恥ずかしさに体を縮こま背ているとカレイドがため息を吐いた。
「ほんと、恥ずかしげもなくよくそんなこと言えるよな。俺もバルド君同様、そんな風に誰かを愛したことはねぇからわかんねぇなぁ~。まぁ、憎くてもうざったくても放っておけないって感情ならわかるけどさ。」
カレイドはフィオル様を見つめながらそう言ってエールを口に含む。
まるでその”憎くてもうざったくても放っておけない感情を抱かせる相手”というのがフィオル様と言わんばかりに。
「あはは、俺はその感情もわからないかな。う~ん……俺の場合は多分、嫌いなところがないから居心地がよくて、隣に居たくなる相手って感じ方に近いんだろうな。リオが俺にとってそんな相手。気が合うんだよ、とことん。」
「……まぁ、俺もバルドはそんな感じ。似た者同士一緒にいるのが楽っていうか、気遣いが無用なところが一緒にいて楽しいのかも。」
皆フィオル様のストレートな発言が気恥しかったのか、どうにかその気恥しい気持ちをどうこうしようとして逆に気恥ずかしい空気になっていく。
(こんな事、口にしたことなかったな……。)
何も言わなくても通じ合う。
瞳と瞳がぶつかれば互いの事なんてわかってしまう。
そんなくらいに俺とバルドは近い存在で、表現的に言えば……
(一心同体。それぐらい一緒にいるのが当たり前で、気を使わなくて……)
大事な存在。
そんなことを考えた時だった。
(……もし、仮にバルドと一緒にいるかフィオル様と一緒にいるか選ばなければいけなくなったら……嫌だな。)
そうなったら俺は多分、フィオル様を選ぶ。
それにバルドもフィオル様を選べと言ってきそうな気がする。
だけど、だからこそ嫌だ。
そこまで俺を理解し、俺の事を思ってくれる存在。
そんな友人ともう、離れたくはない。
(…………離れたくない、か。)
エールを入れた器を両手でつかみながらふと思い出してしまった。
バルドが死んでしまうかもしれない。
そう、酷く焦って、何も考えられないほど絶望した瞬間を。
時間がたって薄れていた記憶を思い出した。
(アレ、公爵の仕業だったんだよな……。)
どうしてそこまで父さんに依存するのか、いや、父さんの面影に依存するのかわからない。
そしてその依存は決して理解できないものであるが故に危険だ。
(公爵の魔の手がまたバルド……フィオル様やカレイドにまで伸びることになったら……――――――)
怖い。
それが素直な気持ちだ。
(俺ができることは別人として徹底して生きる事。少しでも父さんの面影を出してはいけない。それしかないわけだけど……――――――)
「しっかし意外だな、フィオル。お前はバルド君に嫉妬するんじゃないかと思ったぜ。バルド君とリ――――――バド君とリオ君はとんでもなく仲がいいからな。」
「ははは、冗談。確かにリオにとってバド君はかけがえのない存在かもしれないよ?だけど―――――リオはバド君と寝ることはないだろうからね。」
(なっ……!!)
人が考えている間にとんでもない話をしだすカレイドとフィオル様。
その発言に俺は驚き、バルドはエールを吹き出した。
「二人とも女性が好きな事は十分に理解しているんだ、嫉妬をする理由はないと思うね。そういえばこの間……嫌という程女性が好きなのを見せつけられたのを忘れていたよ。リオ、随分はなの下を伸ばしていたよね?」
「え?あ……え、えっと…………。」
にこやかだったフィオル様が突然冷気をまといながら笑みを向けてくる。
ヤバイ。
そう本能的に悟るけど俺に逃げ場がないことは考えるまでもない。
一体どうすれば――――――
そう思った瞬間だった。
「さぁリオ、お口を開けようか。私がバド君お手製のおつまみを食べさせてあげよう。もちろん、あの夜みたいに無邪気な子犬の如く、食べてくれるよね?」
手ザラの上にバルドお手製の燻製肉がつまようじに貫かれて俺の口の近くに運ばれてくる。
そんな燻製肉を運んでくるフィオル様の目は……笑っていない。
(でも……意外と可愛いお仕置き?)
食べさせたい。
それだけなら何の問題もない。
そう思って口を開けた瞬間だった。
「違うよね、リオ?あの時はもっと鼻の下を伸ばして、だらしない顔しながら子犬の様にしっぽを振って、目立ってもっととろんとしていて、頬だってもっと赤かった。他の女に見せた顔をまさか、私には見せないなんてこと、無いよね?」
「…………へ?」
事細かに口にされるあの時の俺の状態。
むしろなんでそこまで覚えてるんだろう。
そう思う程嘘かほんとかわからないけど鮮明な俺の状態の解説。
というか―――――――
(全く同じ状態の再現とか無理だろ!!!!!!)
フィオル様の嫌いなところ。
それはない。
ないけど…………――――――
(よくわからない嫉妬心は単純に困る……!!!)
俺はその後、何度も何度もダメ出しをされ、そんな俺を見ていられなくなったのかバルドとカレイドはバルドの部屋に静かにエールを持って移動していくのだった。
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