第46話

「いや、うん。まぁ……なんというか……―――――」


昼からの飲み。


夜に帰ってきたカレイドとバルドは俺とフィオル様の距離感を見て苦笑いを浮かべていた。


「……え~っと……熱が下がってよかった?よ。」


バルドが笑顔を必死で作りながら言ってくる。


俺の熱はすっかりと下がり、フィオル様はひどく満足げで心なしか肌艶だっていい気がする。


どうやらそんな光景を見て元プレイボーイのバルドは察してしまったらしい。


だけどどうか勘違いしていないでほしい。


(最後まではやってない!やってないんだ!!)


酷く恥ずかしくて布団の中に勢い良くこもる俺。


そう、俺は……――――――


(恥ずかしいぐらいにフィオル様に全身にキスされてただけなんだ!!!)


フィオル様は俺の身体のいたるところにキスをしてきた。


時折細身の俺の薄い皮膚を吸い上げたりしながら何度も何度も全身にキスを……。


(愛されてるってこれ以上ないほど実感した。実感したけど――――)


今でも思い出す。


優しいが故にくすぐったく、ついつい身悶えしてしまうキスを。


いっそ激しく……そう願ってしまうほどに優しいキスに恥ずかしさを覚えつつも物足りなさを感じる俺は悪い子なのだろうか。


「あ~っと……もう夜も遅いし、よかったら止まってくか?まぁ……可能なら俺はフィオル様、あんたとも話してみたいんだけど……。」


毛布にくるまり身を隠しているとバルドの声が聞こえてきた。


バルドはどうやらフィオル様に興味がある様だ。


もちろんそれが一人の男としてじゃなくて、俺の友人としてだという事は俺にも理解できる。


単純に友達が好きな相手がどういう人間か気になるんだろう。


なんて思っていた時だった。


「私としては光栄だよ。私もバルド君、君と話してみたかった。」


フィオル様の柔らかな声音が聞こえてきた。


そんなこんなでフィオル様とカレイドの宿泊が決まり、熱の下がった俺を含めてリビングにて晩酌をすることになった。


「リオ、もし隊長に異変を感じたら呑むのをやめるんだよ?」


「は、はい……。」


フィオル様にエールが注がれた器を渡され、くぎを刺される。


優しい笑顔に顔に熱が帯びていくのを感じてしまう。


(極力フィオル様を見ないようにしよう……。)


不調というわけではなくともフィオル様を見ていたら熱が上がってきそうだ。


そう思いながら俺はお酒を少し口に含んだ。


「あ~っと、ありきたりな質問だけど、フィオル様。あんたはリオのどこが好きなんだ?」


バルドは前置きもなく本題に入り問いかける。


その問いかけをフィオル様も予測していたのだろうか。


笑顔で答えだした。


「逆に聞かせてほしいんだけど、君はもし惚れた相手がいたらその相手のどこを嫌いになるというのかな?どこを好きになったか、ではないよ。嫌いなところなんて何一つありはしない。すべてが愛おしいんだ。仮に人には欠点に見えるようなところでさえ、リオの一部だからね。」


フィオル様はそう優しい声で語る。


そしてそれを語り終えると言葉に感動していた俺に優しく微笑んだ。


微笑のあまりの美しさに目をそらす俺。


そんな俺を見てなのかバルドからため息が漏れた。


「本当にリオが好きなんだな。……いいな。俺はそんな風に誰かを愛したことはないかもしれない。」


バルドは少し遠い目をしてエールを口に含む。


よくよく考えると俺も場ルドと同じだったような気がする。


フィオル様のどこが好きか。


それを聞かれると困るくらい嫌いなところが見つからない。


だけど、今まで付き合った人たちがそうだったかと言われればそうじゃない。


好きだと思った人でも”こういうところは嫌だ”とか、受け入れられない個所とかはあった。


もう少しこうだったらな……なんて願望だってあったと思う。


だけどフィオル様にはそれを思わない。


ただただ愛しい。


もしかしたらそれはそれだけの愛をもらい、俺も返したいが故の感情かもしれない。


でもそういったことを除いても――――――


(フィオル様以外に、いや、フィオル様以上に誰かを愛すことなんてない気がするんだよな……。)


この人が俺のすべて。


そんな恥ずかしい言葉すら口にできてしまうようなくらい俺はフィオル様の事が心の底から好きなんだと改めて自覚するのだった。

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