第50話

公爵様と握手を交わした後、ほどなくして俺は公爵様と別れた。


とりあえず家はバレているだろうけどそれでも可能な限り遠回りをして帰った。


尾行が怖かった……というのは今更かもだけど。


とりあえず俺は警戒に警戒を重ね、慎重に動いた。


…………つもりだったのに――――――


「…………え?」


家に帰った瞬間、俺の血の気が引いた。


家の中がひどく荒れ、家の中にはあちこちに血痕が付着していた。


「なん……で…………。」


明らか誰かが侵入し、荒らし多様な感じだ。


しかも恐らく――――――


「愚かだと思わないか?一度危険な目にあったというのに余計な事に首を突っ込むなんて……」


「っ!!」


犯人が誰なのか。


考えるまでもなく誰か想像できた。


そしてその犯人は自ら俺の前に自分が犯人と言わんばかりに現れた。


そう、いつの間にやら俺のすぐ後ろで公爵様が笑顔を浮かべながら立っていたのだ。


「あんただよな……あんたがバルドを……!!!」


問いかけるまでもなく誰が犯人かわかる。


だからこそ俺は何を聞くより先に一番気になることを問いかけた。


「バルドは……バルドはどこにいる!!!」


今までどこか実感がなかった。


公爵様がやばい奴だって皆に言われても実際目にしたわけじゃないからわからなかった。


だけど、いざ目の当りにしたら今すぐこの男の余裕そうな顔を歪めてやりたいと思うくらいに憎しみが沸いてくる。


「……さぁ、どこだろうな。生きているか死んでいるか、それはわからないし――――――このまま彼を追いかけるか追いかけないかも君次第だ、リシア君。」


公爵様、いや、公爵は俺を見下ろし、余裕の笑みを崩さない。


俺がどれだけ嫌悪感を向けようが気にしている素振りのない公爵。


本当にこいつは俺にどう思われているかなんてどうでもいいんだという事が嫌というほど伝わってくる。


「彼は報告によれば俺の差し向けた刺客から逃亡している。が、深手を負っているらしい。だから生きているか死んでいるかはわからない。が……俺が指示すれば刺客たちは彼を追跡し、確実に殺すだろうな。…………あぁ、行方が分からないが追跡していない者たちがまだいたな……。」


公爵は笑みを浮かべたままゆっくりと俺に近づく。


そして俺に新聞を差し出してきた。


今は新聞なんて読む気になれない。


そう思うけど俺は乱暴に公爵から新聞を奪い取り、内容を見た。


するとそこには―――――――


「…………え?」


日付を見ると今日の夕刊。


記事の一面には大きく悲惨な事故について記載されていた。


(エルシオン公爵家の嫡子とラグラルク公爵家の二男を乗せた馬車ががけから転落。発見当時馬車の中に人はおらず、二人は行方委不明。エルシオン公爵家は公爵夫人も突如何者かに襲われ意識不明の重体により療養している中、まるでウェーベルンの王の呪いかと思われる程に悲惨な出来事が相次いでいる……!?)


バルドだけじゃない。


フィオル様にカレイド、そして自分の伴侶にまで手を出しているのだという事が新聞一枚で理解できた。


(コイツ……本当にイカかれてる……!!)


どうにか今の状況を理解しよう。


そう思うのにどんどん俺の頭は現状を理解できなくなっていく。


愛下男の面影のある男の為に血のつながった娘、特に中が悪くない伴侶を手にかけられるものなのだろうか。


しかも、そんなことをしたところで俺の心は絶対に手に入らないのに……


それに――――――


(何が一番イカれてるって、事故が起きた推定時間は昨日の夜だって書いてる。つまりこの男は自分の目でフィオル様の相手がリシアかどうかを確かめる前に行動を起こしたってことだ。)


本当にただの似ている人間でしかなかったら……


そんなことを考えなかったというのだろうか。


それに何より――――――


「なんで……なんであんたは俺がリシアだと……?」


まさかフィオル様動揺、俺がどんな姿をしていようが気づくとでもいうのだろうか。


もしそうだとしても運命なんて欠片も感じることはないけど。


そう思いながら身構えつつ俺は公爵の返答を待った。


すると公爵は俺に手のひらを見せてきた。


「君は知らないだろうがソードマスターというのはいろいろと優秀でね。誰もがそうというわけではないが、俺は握手をした人物の気を感じられるんだ。君は覚えているかな?初めて会ったあの夜、俺たちが手を重ねたことを。」


公爵は笑みを浮かべながら種明かしをしてくる。


そしてそんな種明かしをしてきた公爵の話を聞いて俺は改めて思った。


(本当にこの男、イカれてるっ…………―――――――)


今日、リオとして初めて握手を交わした。


つまりかくしょうを持ったのはあくまで今日。


なのに公爵は事実を確認する前にフィオル様とカレイドの乗った馬車を襲ったと思われる。


これ以上、刺激してはいけないと俺は身体を震わせながら思うのだった。



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