第56話

色々悩み、活路を見出した。


けれどその為には俺はとあることを覚悟しなければならなかった。


正直、演技に自身はない。


だからこそ―――――――


「リシア。今朝がた君が厨房で怪しい行動をしていると聞いたんだが……。まさかこのスープは毒入りかな?」


どこか確信を持っていてこの後の展開を楽しみそうに笑う公爵。


その姿は毒を盛られているかもしれない人間になんて誰も見れやしないだろう。


(毒を盛っていてくれとすら言う表情……。本当に狂ってるな。)


俺は気味の悪い笑みを浮かべられながら問われて一瞬たじろぐが、堂々と返答を返した。


「残念だけどあんたの予想は外れだ。確かに俺はスープに液体は入れた。だけどそれは毒じゃない。精力減退剤ってとこかな。俺はあんたが信用できないんでね。」


俺も負けじとなぜか笑みなんて浮かべながら返答してみる。


正直公爵の事を疑ってはいない。


一度も不意打ちも無理やりも何かをされたことはない。


しいて言えばとんでもない魔道具をつけられていたくらいだろう。


だけど――――――


(俺の立場であれば公爵の事を信頼していないという主張は何らおかしくない。だからとりあえず何かを盛るという動作のフェイクに使うために俺は毒ではなくとも自分に理がある薬を盛った風に装ったわけだけど……。)


反応はどうだろう。


そう思いながら公爵を見つめていると公爵は少し驚いた表情を浮かべた後微笑、躊躇なくスープを口にした。


(はぁっ!?)


何のためらいもなく口に運ばれるスープ。


そのスープを飲む姿に俺は呆れずにはいられなかった。


(滅多なことがない限り毒が効かないってのもあるだろうけど、毒だといっても本当に甘んじて飲みそうな勢い。……それか精力減退剤もソードマスターには効かないって思っているか実証済みなのか……。)


色々な可能性が頭に浮かぶ。


そんな可能性を考えている時にふと、嫌な事を感じてしまった。


(フィオル様も俺から手渡された毒なら……飲みそう……。)


何をどうこじらせていても親子だなと感じてしまう。


フィオル様の母親については何も知らないけど、なんとなくフィオル様は容姿はさておき、内面的なものは公爵……父親になのだろう。


「精力減退剤で苦みが出ると思ったが、言い隠し味になったようだ。とてもおいしかったよ、ごちそう様。」


「…………お粗末さまでした。」


公爵はスープを平らげると清々しくていっそ嫌みったらしい程の笑顔でお礼を言ってきた。


いや、嫌味かもしれないし嫌味に感じるような言葉だけど……


(なんとなく本心で悪気なく言っている気がする……。)


フィオル様と内面的なところが似ていると知れば知るほど公爵の言動に裏がないことが理解できてしまう。


(……理解なんて、したくないんだけどな。)


正直な話、理解するのはとても怖い。


でもそれは多分俺じゃなくてもそうだと思う。


公爵がイカれてるどうのこうのはさておいて――――――


(これから殺そうという人間を理解するなんて馬鹿がする事じゃん……。)


理解や情が深まれば深まるほど毒殺はつらくなっていってしまう。


そう思う。


この男は危険で、俺の大切な人たちを害す人間。


そう、頭では理解しているし、実際バルドだって傷つけられた。


なのに―――――――


(フィオル様と似たように笑うなよ……ったく……。)


人間、そう簡単に割り切れるものではないとひどく思い知らされる。


憎しみを抱いて、殺意を抱いてここに来たはずなのに……


(できるだけ……早く殺さないと……。)


早くも心が揺れている自分に情けなさを感じずにはいられないのだった。

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身代わりペットの俺は執着系公爵の籠の中。~不定期9時更新~ 鸞~ラン~ @fengphoeni

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