第7話

「はぁっ……はっ……。」


お互いに熱い息を漏らしながら何度も何度も口づけをする。


気づけばベッドに腰かけていた俺の身体はベッドの上に押し倒されていた。


「ねぇ、君はいつもこんなに肩を出した服を着ているの?」


美青年は熱い息を漏らしながらそういうとまた俺の首筋に顔をうずめた。


普通の女の子よりは多少骨ばった身体。


成長を遅らせる薬を飲んでいるため、男性らしさはそこまでない身体。


そんな俺に似合うのはデコルテ部分を出した服装で、父さんもよく言っていた。


意外と男性が女性の服を着るときはデコルテ部分を出す方が自然に見えやすいと。


それもあって好んできているため、俺は熱で朦朧とする中、静かに頷いた。


「……魅力的だね。気分を害さないでほしいんだけど……僕好みのスタイルだ。」


気分を害さないでほしい。


それは俺が女性らしいスタイルではないから言った言葉だろう。


胸は全く膨らんでいない上、肉付きもさほど良くなく柔らかい体ではない。


(そういえばさっき、男にしか興味がないって言っていたっけ……。)


意識がもうろうとする中、美青年の先程の言葉を思い出す。


(そりゃまあ、華奢な男が好みだったら俺は好みだろうね。)


俺は息を乱しながら微笑んだ。


すると美青年は楽しそうに笑みを浮かべると舌なめずりをしてまた俺の唇にキスをしたのだった。





(あぁもう、俺ってば何やってんだろう……!!)


暫くして風呂を用意してもらった俺は入浴を手伝うという使用人の女性を何とか追い出して一人で入浴しながら頭の熱を冷ましていた。


「……俺、男もいけたんだ。」


信じられない大発見に動揺しながら湯船に口までつからせる。


「男が好き……か……。」


場合によってはばらすのはありかもしれない。


なんて少し思ってしまう。


今はまだ彼がどこの誰かわからないからばらすことは怖い。


だけどまた会って、彼をよく知っていったその時は……


(バルドにも話したことのない秘密、明かしてみるのも悪くないかも。)


今の俺は彼がこの屋敷で敬われる立場であることと名前しか知らない。


(普通に考えるとご子息……とか?だったら今後、結構会うことになるのかな。)


公爵は俺に言った。


逃げ出そうとしない事、自分を害さない事、そして公爵のお願いは極力聞くこと。


これさえ守れば屋敷の中で自由に過ごしていいと。


だとしたら彼がこの家の人間ならまた会えるかもしれない。


(まぁ、どのみち期限付きだろうけどさ。)


この家のご子息でなくとも貴族の息子であることはおそらく確かだ。


いつかは貴族同士結ばれるだろう。


(……俺は一生、多分独り身だろうけどさ。)


自由を代価にバルドを救ってもらった俺はきっと誰かと添い遂げることはないだろう。


なら多少、一時の火遊びくらい許される……よな?


なんて思いながらおれっは湯船に全身をつからせた。


(と、とりあえずあの美青年が公爵の愛人ではありませんように。)


公爵が男色家という事、そして彼も男色家という事実から一つ嫌な想像をしてしまうけれど、どうかそうでないことを俺はただただ願うのだった。


そして――――――


「さぁ、作法など気にせず自由に食べるといい。」


「は、はい……。」


俺は美青年に味見された跡が隠れるドレスを着て招待された晩餐にやってきた。


そこには美青年の姿もあって、すこし胸がうるさくなった。


余り見つめすぎるのもどうかと思うけど自然と視線が彼に向ってはそらしてをつづけていると公爵は思い出したかのように言葉を発した。


「そういえば紹介がまだだったな。私の子のフィオルだ。」


「フィオルです。よろしくお願いしますね、レディ。」


「は、はい!!えっと、リシアです、よろしくお願いします!」


公爵に紹介されて穏やかに笑うフィオル様。


フィオル様の笑顔に胸が耐えきれないほどうるさくなった俺はすぐさま視線を外し、食事に集中した。


「……ほぉ、意外と君は食べるんだね。」


「え?あ……食事の量ですか?まぁ、割と食べる方ですね。」


驚いたように公爵が言葉をこぼし、一瞬何のことかわからなかった俺だけど何のことかはすぐに理解した。


まぁ、一応成長期の男だ。


成長を遅らせる薬を飲んでいても食べる量ばかりは仕方ない。


少し体が細身なのは多分、薬の副作用で栄養が吸収されにくいからだと思う。


それでも量は食べたくなってしまうのだ。


「いいですね。よく食べる方は好きです。」


「っ!!あ、ありがとうございます……。」


フィオル様が優しく微笑みながら好きという言葉を口にしてくれ、顔が熱くなる。


その瞬間、公爵からひどく冷ややかな視線を感じた。


急ぎ公爵を見ると公爵はフィオルに似た表情で微笑んでいた。


(き、気のせい、だったのか?)


なんてことを思いながら再度食事に集中する。


そんな俺を公爵もフィオル様もにこにこと見つめていて少しだけ居心地の悪い晩餐になったのだった。

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