第21話

「さて、俺の事も話したわけだし、今度はお前の番な。お前は何で見るからに男って感じなのにフィオルに惚れたんだ?」


「…………。」


なんとなく質問が戻ってきそうな気がして今度は多少の心づもりをしていたおかげで紅茶は吹き出さずに飲み込めた。


が、やはり不躾な質問という事実は変わらないわけで……


(まぁいいか……。)


悩んだ結果俺は素直に打ち明けることにした。


「女の子が好きってのは変わってないと思う。使用人の女性たちを可愛いとか素敵とか思うし。でも……なんていうか……最初は中性的な顔立ちがまぁ、気に入って、その後は羊の皮をかぶった狼、みたいな……控えめそうなのに肉食系の様な所に惹かれたというか……。」


「ふ~ん……じゃあマジで無自覚な本能ってやつか。」


「…………え?」


気恥ずかしくなりながら惹かれている理由を語っているとカレイドがぼそりと言葉をこぼした。


一体何を言ったのかうまく聞き取れず、なんと言ったのかを聞きなおそうとした時だった。


「は、離せ!!!嫌だと言っているだろう!!!」


突然薬草園の扉が開き、酷く聞き覚えのある人の声が聞こえてきた。


薬草園には大きなトピアリーの壁があって、俺たちのいるところからじゃ入り口の方はよく見えない。


俺は反射的に立ち上がり入口の方へと様子を見に行こうとした。


その時だった。


「行くな。」


俺の視界は突然真っ暗になり、体は優しく抱きしめられて拘束される。


恐らくカレイドが俺を抱き寄せ、その手で俺の目を隠しているんだろう。


「リシア、お前の手で自分の耳を塞いでやってくれ。頼む。」


俺の視界と自由を奪いながらいつもより低い落ち着いた声で語り掛けてくるカレイド。


事情は分からないけれどきっと俺がみたり聞いたりしてはいけないことが今、起きているのかもしれない。


なんとなくカレイドは他人の為に動く人だという事が解る。


きっとこれも誰かの為なのだろうと俺は気になる気持ちを殺して耳を塞いだ。


そして耳をふさぐと俺はカレイドから軽く肩を上から押され、カガメと言われているような気がしてその場にかがんだ。


そしてかがむとカレイドの手は俺の目元から外され、カレイドは人差し指を口との前で立てて「静かにしていろ」と言わんばかりの表情を浮かべると薬草園の入口の方へと歩いて行った。


それからほどなくして耳を塞いでいても聞こえる大きな音が聞こえた。


酷く気になる。


だけど俺は好奇心を殺して言われた通りかがんで耳を塞いでいた。


それからしばらく、言い合うような音が聞こえてきたけれど俺は耳を塞ぎ続けた。


そして力強く扉が閉まる音が聞こえると俺は流石にもういいだろうと思い、耳から手を外した。


一体何があったのか。


恐る恐る入口の方を覗き見た。


するとそこにはひどく泣きじゃくるフィオル様の姿、そしてそんなフィオル様を優しく愛おしそうに抱きしめるカレイドの姿があった。


「だから言っただろうが。誰彼構わず遊ぶんじゃねぇって。」


声を殺しつつもひどく泣きじゃくっているフィオル様。


そんなフィオル様を抱きしめ、頭を撫でながらカレイドは呆れたように言葉を言い放った。


「仕方……ないだろう……。生きるためには……こうするしか……。」


泣きながら今にもきえそうな声で言葉をこぼすフィオル様。


そんなフィオル様の発言を俺はどうしたって軽く聞き流すことができなかった。


(生きるためには……って一体――――――)


困惑した。


一体何の話をしているのだろう、と。


その困惑のせいで静かに盗み見るつもりだったのに俺はトピアリーの草を割と大きな音で鳴らしてしまった。


その瞬間、フィオル様の視線は静かにおれへと向けられた。


「あ……えっと……。」


みてはいけないものを見てしまっている。


そんな気になった俺は言葉を探した。


なんて言おう。


なんて――――――


「リシアっ……!!」


言葉を探していると俺の名前を力強く呼ばれた。


そして気まずくて視線をそらしていた俺が再びフィオル様がいた方へと視線を戻すとフィオル様は何故か俺の目の前にいて、そして俺に抱き着いてきた。


(うわぁっ!)


飛びついてくるフィオル様の勢いがあまりにすごすぎて一瞬よろけてしまう。


だけど何とか持ちこたえた俺は俺に抱き着くフィオル様の背中に腕を回した。


「リシア……リシア……お願いだよ。何も言わずに慰めてくれないかい……。」


フィオル様はそういうと左腕で俺の腰を抱きながら右手で俺の顎を持ち上げた。


俺とフィオル様の身長差は20センチ近くある。


そしてフィオル様は女として生きる俺よりは短いけれど、髪は長い。


近くにカレイドがいるけれど角度的に隠れそうだと思った俺は静かに目を閉じた。


すると次の瞬間、何時もより力ないフィオル様の唇が俺に重なるのだった。

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