第29話

「とりあえず順を追って説明しよう。」


バルドは話を聞く準備ができた俺にまずここがどこなのかを教えてくれた。


ここは帝国が今戦争をしている国のさらに隣の国、ファッシバルド共和国だという。


この国には王がいない。


その代わり平和が約束された国と言われている国だ。


とはいえ、王はいないけれど貴族たちはいる。


王の代わりに貴族会議によってすべてが決まる場所。


「逆に言えば細かいところまで手は届かない。この国は世界的な中立国だ。攻めることは決してどの国も許されないし、この国が戦争に関わることもない。だが故に戦争がはじまると足がつかないようあくどい事とかはこの国で行われていたりするんだ。例えば敵国から攫ってきた子供を奴隷として売りさばく、とかな。」


中立国であるからこそ戦争商売がしやすい。


そういう闇があることをバルドは話してくれた。


「この国では奴隷でも殺してはいけないというルールがある。だからあくどい商売の犠牲になった被害者祖国も逆に言えば一時的に劣悪な環境課の可能性はあれど”保護”されていると考えもあるらしい。だから取り締まりを国側に求めることはないんだ。」


「……言ってしまえば戦争が終わり、平和になれば金さえあれば買い戻せる……ってことか。でもなんか嫌だな。その……人の命を商品と思ってるみたいで。」


買ったり売られたりする側の気持ちを考えるより、結果論で見ると確かに生きてさえいてくれればいいのかもしれない。


だけど売り買いされる側の心は決していいものであるはずがない。


「ま、俺もそう思うよ。とはいえ、普通に暮らしていればこの国は戦争が起きている間は安全だ。だから俺は戦争が始まってすぐ情報屋として独立してこの国に来たんだ。くそ野郎も牢にぶっこめたからな!」


「!!つ、ついにぶっこめたのか!?よかったじゃん!!!やったな!!!」


「おう、やってやったぜ!!!」


シリアスな話から一転、とんでもない吉報に俺のテンションは上がらずにはいられない。


そんな俺の言葉にバルドは悪戯っ子の様な笑みを浮かべて調子のいい姿を見せてくれる。


その笑みを見て懐かしくとも数か月前とは違う笑顔に俺は冷静さを取り戻した。


「……それで、その、公爵関係の話は?」


俺が静かに話題を変えるとバルドは小さく息を吐き捨て、俺の望む話をしてくれ出した。


「情報屋で情報を集めていく中で、俺が襲われたのは確かに多少なり俺に恨みのあるやつだったことはわかった。まぁ、逆恨みだけどな。だが、嗾けたのが公爵という事実にもたどり着いたんだ。それも……ひどくあっさりとな。」


バルドはひどく悩ましげな表情をしながら語り始めた。


俺はとりあえずバルドの話をひとしきり聞こうと黙ってホットミルクの入ったカップを握りしめた。


「まるで自分までたどり着いてくれと言わんばかりだった。俺がその事実にたどり着いて何らかの復讐をしようと企てる、もしくはお前を連れ戻そうとするまでが公爵の狙いだったと思う。何故そんな事をさせようとしたのかはわからないが、俺はその公爵の挑発には乗らなかった。それはお前が公爵の探している人物に似ていたからだ。」


バルド曰く、公爵は俺に危害を加えないだろうと察していたらしい。


だから訳の分からない挑発に乗ることはなく、自分がすべきことをしようと行動し、父親を牢にぶっこんだのち、戦争も理由ではあるけど公爵も簡単に干渉できない共和国で情報屋を始めたのだとか。


そして、この国での情報屋の大きな仕事の一つ。


他国から連れてこられた人間の情報の入手をしていた際に珍しい水色がかった銀髪の少年の情報が入ったらしい。


その情報が入った時に余りにも貧相な体をしていた俺を思い出してまさかと思い、奴隷商の元へありったけのお金をもって赴いたらまさかのビンゴだったというわけだったらしい。


「いやぁ、本当、お前が男でよかったよ。この国では女の子の奴隷は基本売り買いされない。何故なら性的虐待を受けた際、買い戻された後のリスクが国として怖いからだ。だからもしお前が女だったら殺されていただろうよ。」


俺の正面に座って話をするバルド。


あまり大きな机でないからバルドの手が俺の頭に伸びてきて俺の頭を軽く叩いた。


その行動にぬくもりを感じると共に肝が冷えた。


(もし女になる薬が切れていなかったら俺は……。)


今、生きていなかったかもしれない。


悪運が強いというか、なんというか……。


「で……さ。リシア。お前これから俺とこの国で暮らさないか?」


色々と頭の中を整理できない俺にバルドが恐る恐る問いかけてきた。


その問いかけに俺はすぐに答えることができなかった。


何故なら、問いかけられた瞬間俺の脳裏に随分と会えていないフィオル様の顔が浮かんだからだった。

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