第28話

「約束の金だ。好きに使ってくれ。」


暗い闇の中。ひどく懐かしい声が聞こえた。


余りのなつかしさに目を空けずにはいられなくて、俺は静かに目を開いた。


「あ……起きたか。久しぶりだな、リシア。」


ゆっくりと目を開けるとそこに居たのは――――――


「……誰?」


見知らぬ男だった。


「あぁ……魔法薬で姿を変えてるからわかんねぇか。俺だよ俺、お前の大親友だ。」


「…………え?」


大親友。


そういわれて初めて俺は目の前の人物が誰か理解する。


顔に覚えはないけれど声には覚えがある。


そして何よりこの調子のいい笑い方と喋り方。


「……バルド?」


俺は小声で思い当たる人物の名前を読んだ。


するとバルドはにっこりと笑って答えた。


「おう、その通りだ!とりあえずしばらくじっとして黙っててくれよ。――――おい、この子の手錠を外してくれ!!」


バルドが大きな声を出し、誰かを呼ぶ。


すると一人の男が来てバルドに本当にいいのかと尋ねてから俺の手錠を外した。


「さてと、話したいことはたくさんあるがとりあえず行こう。ここは長居する場所じゃないからな。」


とりあえず何が何だかわからないけど俺はバルドについていくことにした。


そしてバルドにただただついて歩き、たどり着いたのは小さな家だった。


いや、公爵家で見慣れているから小さく感じるけれど普通に立派な家だ。


家具だってちゃんとしたものがそろえられているし、何より隙間風も何もない。


その家に着くなり勝手知ったるように家の中を動き回るバルドを見てここがバルドの家なのだという事を理解した。


「とりあえずそのザ、奴隷ですって感じの服装どうにかしねぇとな。男物の服でいいよな?」


「…………え?」


気が動転していて何も自分の状況に目をやれていなかったけれど、たまたま近くの鏡を見るとひどく小汚い布一枚を身に纏った水色がかった銀髪のショートヘアーの少年の姿があった。


「なっ!!!」


その姿が自分のものだという事を理解するのに時間はかからなかった。


そして驚きの声をあげた瞬間、俺の声がいつもの女性のような声じゃなく、普通に少年らしい声に変わっていることにも気づいた。


「いやぁ、俺がお前に興味持たないわけだよな。お前が男だとは思いもしなかったぜ。」


酷く驚く俺に反して明るく、むしろ妙に納得したように語るバルド。


バレちゃ仕方ないと俺はため息を吐いてバルドに近づいた。


「お前より良い男だろ?」


かがんで服を選んでるバルドの肩に肘を置き、冗談めかしく語りかける。


すると俺の額には「ばーか」という声と共にデコピンがお見舞いされた。


「俺のが何倍も色男だね、お坊ちゃん。」


昔の様に調子のいい口調といたずらっ子の様な笑顔で俺の冗談に答えてくるバルド。


そんなバルドの発言に俺は笑みをこぼすものの、すぐにその笑みは崩れた。


俺の笑みが崩れると同時に魔法薬が切れたのかバルドの姿が俺のよく知る姿に変わった。


だけど俺がよく知る色男の顔半分には見覚えのない大きな傷があった。


眉毛あたりから頬にかけて大きな縦傷が一つ。


「……随分たくましそうな色男になったな。」


俺はその傷に触れながらバルドに語り掛けた。


「まぁな。もう会うことはないだろうがお前を連れてった公爵に礼を言いたいくらいだ。随分な色男にしてくれてありがとよってな。」


「…………え?」


冗談めかしく語るバルド。


だけどのそのバルドの口調にはひどく、怒りが込められているように感じた。


「ま、とりあえず着替えろ。色々話してやるからさ。あとこれも一応飲んどけ。髪色と瞳をの色を変える魔法薬だ。」


「……うん。」


俺はバルドに渡された服を着て魔法薬を飲んだ。


俺が着替えている感、バルドはホットミルクを用意してくれた。


そして話を聞く準備を終えた俺はホットミルクをもらいながらバルドから詳しい話を聞くことになったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る