第27話
フィオル様が屋敷からいなくなってから数日、十数日、そして何故か1か月の月日が流れた。
(はぁ……また失敗か。)
俺の作る薬は失敗に失敗を重ねていた。
それに――――――
(ここ最近、やたらと監視されている気がする。)
どこからか視線を感じる。
とはいえ、それがどこからなのかはわからない。
ただ、誰かに見られていると思うと実験もあまり思うように進まなかった。
俺が魔法薬を作って使用していること。
それは誰にもばれてはいけないからだ。
だから迂闊に試せないから思うように開発が進まない中、公爵家にいる事の囲碁ことがどんどん悪くなってきていた。
(……こっちの薬の実験は……――――と、そろそろ寝ないとな。明日にするか。)
夜も大分更けてきた。
いい加減寝ないと行けな。
そう思った矢先の事だった。
「リシア様をおまもりしろ!!!」
(……え?)
廊下から叫び声が聞こえてきた。
しかも、俺を守れというセリフと共に。
一体何事だろう。
そう思った次の瞬間だった。
廊下が気になり部屋の扉に視線を向けていた俺の背後にある窓ガラスが突然、大きな音を立てて割れた。
そして音に驚き振り返った瞬間だった。
「大人しくしていろ。死にたくなければな。」
俺の首元にはひどく冷たいものが当てられていた。
本能的にそれが何なのかは考えるまでもなかった。
(俺今……刃物を突き付けられているのか?)
ほんの少しでも動こうものなら首を斬られるかもしれない。
そんな恐怖心に体が揺れる事すらひどく怖くて仕方がない。
「……賢明な選択だ。」
侵入者は冷たく言葉を吐き捨てると剣を鞘に納めて俺を肩に担ぎ上げた。
暴れることが得策じゃないことも理解している上に何より体が震えて暴れる事すら叶わない。
(どうしよう。どうすれば――――――)
今自分に何ができるだろう。
そんなことを考えていると突如視界を煙が覆った。
何かしなければ。
そう思うけれど気づけば俺の意識は深い深い闇の中へと沈んでいくのだった。
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エルシオン公爵家を含む3公爵家を筆頭に隣国と戦を続けている最前線。
そこでは今、敵からの襲撃がないというのにひどく緊迫した状況が続いていた。
「ご報告いたします、エルシオン公爵家ご嫡子フィオル様、ラグラルク家ご嫡子のカーヴァン様、次男のカレイド様、ファクシミリアン公爵家の奥方マリベル様、ご嫡子マリック様、ご息女ティナー様の行方は未だ、つかめず……。」
野営地の中で一番大きいテントの中では一人の兵士と3大公爵家の家族が行方をくらませたという報告がそれぞれの家紋の当主にされていた。
ラグラルク家の奥方は随分と昔に亡くなっていること、そしてエルシオン公爵家の奥方である公爵夫人は夫であるディオルドと共に戦線に立っている。
つまりそれぞれの家に残された家族たちが挙って行方をくらませているという事だ。
「敵国が何らかの作戦を実行したのでしょう。可能性としては人質としてとらえられている可能性が……。」
「くっ……姑息な……!」
ファクシミリアン公爵が可能性について話すとアリアドネ・エルシオン公爵夫人が唇をかみしめ、敵国を叱責する。
そんな中、またも一人、テントに兵士が飛び込んできた。
その兵士はエルシオン公爵家の兵士だった。
「こ、公爵様!!!緊急のご報告です!!!先程早馬が届き、エルシオン公爵家を何者かが襲撃。客人のリシア嬢が屋敷から連れ出され、襲撃者を追いかけたところ、近くの湖でリシア嬢の死体が発見されたとのご報告が……!!」
テントに入ってきた兵士は自分がきいた話を公爵に告げた。
その瞬間、公爵の周りにはひどく冷たい空気が漂いだした。
その場にいる誰もが知っていた。
リシアという少女がディオルド・エルシオンにとってどういう存在なのかという事を。
その場にいる誰もが知っていた。
ディオルドが求めるリシアという少女が一体だれに似ていているのかを。
それゆえにテントの中にいる公爵家の者たちはだれも言葉を発さなかった。
余計な発言をすることにより己が命を危ぶめない為にも。
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