第26話

カレイドから衝撃の事実を聞いてから一週間。


俺はとにかく服を着ている時は発言に気を付け、カレイドに助けられながらフィオル様のスキンシップを避けた。


だけど……やりすぎたのかもしれない。


「ねぇ、リシア?どうしてそんなに昼間は僕とのスキンシップを避けるんだい?」


俺は今、フィオル様に執務室の机の上に押し倒されていた。


「いや、えっと、あの……。」


滅多なことは言えない。


フィオル様に俺の声が録音されていることがバレてもまずいし、俺がフィオル様に声す言葉だって気を付けなければいけない。


カレイドが来てくれるまでうまくやり過ごそう。


そう思った瞬間だった。


「あぁ、カレイドが来るのを待っても無駄だよ。カレイドはこれないようにしておいたから。」


バカなことは考えるなと言わんばかりにフィオル様は言葉を投げかけてきた。


(もう、俺にどうしろっていうんだよ!!!)


フィオル様にばれてもダメ、だけど公爵にあまりフィオル様と過度なスキンシップをしている声を聴かせるのはもっとダメ!


俺はどうすればいいというのだろう。


(服さえ脱げればいいわけだけど、突然脱ぐのは頭がおかしいし!!)


意味もなく脱ぐ行為は逆に怪しい。


この場をどう切り抜けるべきか。


そう思った瞬間だった。


「フィオル、大変だ!!!!」


執務室の扉が勢いよく開いた。


扉を開けたのは来れないはずのカレイドだった。


「って、お前また……!って、そんなことを話してる場合じゃなかった!今すぐ出かける用意をしろ!!」


カレイドは俺を助けに来たというよりは本当に急用があってフィオル様を訪ねてきたという風に思えた。


余りのただならぬ様子にフィオル様は小さくため息を吐くと俺の上から退き、カレイドの元へと向かった。


二人は小さ目の声で話していた為、扉から離れた執務机の上にいる俺には内容は聞こえない。


だけどカレイドの話を聞いた瞬間、フィオル様は頭を抱えてため息を吐いた。


どうやら相当思わしくない報告だったらしい。


そしてその報告を受けたフィオル様が俺へと視線を移した。


「リシア、君も準備を―――――」


「馬鹿!!!あいつは連れていけないだろ!!この屋敷から連れ出せないことを忘れてるのか!?」


フィオル様は一瞬、俺も連れて行こうという考えだったらしく俺に声をかけてくれた。


だけど俺がこの屋敷から出られないという事をカレイドも知っていたのか、カレイドがそれが叶わないことをフィオル様に伝えた。


そう、仮に俺が一歩でも屋敷から出てしまったならば出たことが公爵にばれてしまう。


公爵がいないから出て行っていいという事にはならない。


「……解った。リシア、数日、長ければ十数日屋敷を空ける。戻ってきたらまた一緒に過ごそう。」


「…………はい、行ってらっしゃいませ。フィオル様。」


すごく離れがたそうに去っていくフィオル様。


そんなフィオル様を見つめながら思った。


(最近、本当に自分が”ペット”として連れてこられたんだって自覚させられるな。)


位置が解る首輪が付けられていることも、鳥かごで飼い主の帰りをただただ待つことしかできないことも、自分はペットなんだと実感させられる。


(……そういや、もうすぐ薬の効果が切れるよな?せっかくだしなんか新しい薬でも作って実験してみようかな……。例えば、姿を変える薬とか――――――。)


不自由なんてない。


そう思っていたのが馬鹿らしくなるほど不自由さを感じる。


想ってはいけないのに俺は自由にどこへでも行けるようになりたいなんてしまわずにはいられないのだった。

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