第25話

カレイドと部屋まで戻ると俺は自分のベッドに腰かけた。


俺の部屋には椅子は一つしかない。


その椅子にカレイドが据わるのを促すためだった。


カレイドはそれがわかったのか椅子に腰かけた。


「……実はだな、最近お前の私物、なくなってたりしないか?」


「…………え?」


すごく言い出しづらそうに絞り出される言葉。


その言葉を受けた俺は間抜けな声を零した。


「一回着た服とか無くなってたりしないか?洗濯から返ってこない、とか……。」


カレイドは唸り声をあげながら一例を出してくる。


とはいえ俺はその質問にすぐ答えることは難しかった。


「最近はその、ずっとフィオル様といるから私がいない間に使用人の方が服を戻してくれているらしいから……ちょっとわからない。確認してみる。」


クローゼットの中に所狭しと入れられた服はひどく多い。


余りにも数が多いからとりあえずもったいないし、全部着るまでは同じ服を着ないようにしていたのもあってまったく気にしていなかった。


だから確認してみないとわからなかったわけだけど―――――


(……あれ?確かにない。)


使用人の肩から直接服を受け取っていた時の服はある。


だけどここ数日着た服に関してはどこにもなかった。


「…………その反応を見るにやっぱりか。」


「……やっぱり?」


思った通り。


そういう反応を見せるカレイドの言葉の意味が解らず俺は首を傾げた。


するとカレイドはまた盛大な溜息を吐いて話をつづけた。


「どこに行ったか教えてやろうか?戦線にいる公爵のところだよ。」


「…………は?」


訳が分からずまた間抜けな声を零す。


何で俺の服が戦線の公爵の元に送られるんだ?


訳が分からないという表情でカレイドを見るとカレイドはひどく気味が悪そうに言葉をつづけた。


「とりあえず何も聞かずにその服脱げ。んでそうだな、とりあえずネグリジェでいい。着替えろ。」


(…………?)


酷く疑問は残る。


だけどカレイドが何かを支持してくるときは大抵理由がある。


俺は言われた通り浴室で着替えを行い、ネグリジェを身に纏い部屋に戻るとカレイドに服を渡すように促されて渡した。


カレイドは服を受け取ると服についている装飾に手を伸ばした。


そしてその装飾を外すとそれを折れに見せてきた。


「これ、魔道具な。しかもただの魔道具じゃねぇ。どこにいても居場所が飼い主にわかるペットの首輪によく使われる魔道具だ。」


「…………え?」


自分の身に着けていた服。


それにペット用の魔道具が付けられていたという事実に背筋が凍る。


あまりの衝撃の事実に驚いている俺にカレイドは話をつづけた。


「位置特定装置として使われる魔道具で小型ペット用でも莫大な金がかかる。だから人間に付けられてるなんざ誰も思わない上に実在している事実を知る奴だって少ない。サイズは服によって異なるだろうがたぶん、全部の服についてるだろうな。」


「っ…………。」


全部の服についている。


それを言われた瞬間、俺が身に纏っている公爵が用意した服は”首輪”と同じだという事を知る。


ペットの様な感じでここに住んでいる自覚はあったけどいざ本当にペットの様に首輪をつけられていたと思うと気分がいいものではなかった。


「ついでにこれはペットの声だけを記録する機能も付いている。つまりだ。お前がそのネグリジェ以外を身に纏い喋っている内容はおそらく、公爵に聞かれている。」


「なっ……!!」


ただの位置特定装置。


それならまだ少し不快というだけで抑えられた。


だけど、声までしっかりとられているのは納得できなかった。


だって、それはつまり―――――――


(フィオル様の本当の性別を知ってからというもの、昼間の執務室などでも随分いちゃついたりした。それが全部筒抜けってことだよな!?)


プライバシーも何もあった物じゃない上、それに公爵はフィオル様と必要以上に仲良くなるなと忠告してきていた。


傷つく理由はいくつか考えられるけど、快くは思わないだろう。


「……教えてくれてありがとう。一応、ネグリジェ以外の服を着てるときは気を付ける。なんとなくだけど”着ない”とか”装飾を外す”って選択はよくない気がするし……。」


こうやってカレイドが服を脱がせて話をしたという事は相手にこちらが気づかれたとバレることは好ましくないという事なのだと思った。


そしてそれはそういう事なのだろう。


カレイドも俺の意見に首を縦に振ることで同調した。


「ちなみにこのことはフィオルには言わないほうがいい。最近のあいつを見ていてわかるだろうが、あいつはあんたに執着している。公爵がこんなことをしてるってわかったら何をしでかすかわからない。そしてその行動が公爵に邪魔だと思われたら――――――」


カレイドは言葉を言い切ることなく途中で止める。


だけどその先に言いたい言葉は簡単に想像できた。


(殺されるかもしれない……か。)


好きな人が危険な目に合う事。


それは俺だって避けたい。


(まさかこんなタイミングで自由の代価を感じることになるとはな。)


俺はどうしようもできない出来事にただただため息をつくことしかできないのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る