第30話

「正直、今帝国に戻るのはかなり危険な上、お前に公爵家に戻って欲しくない。公爵はやばい奴そうだしさ。」


バルドは素直考えを俺に話してくれる。


だけど俺はそれを理解した上でもやはり、納得が難しかった。


(正直に話すか……。)


納得が難しい。


そういえば理由を問われると思った俺は自ら俺が渋る理由を話すことにした。


俺は公爵家でどう過ごしていたか、そして今までにない程大事な人ができたという事をすべてバルドに話した。


「はぁぁぁあ!?公爵の娘と愛し合ってた!?」


俺の話を聞いたバルドは大きな声で驚きの声をあげた。


そして前髪をかき上げ、かき乱すと大きなため息を吐いた。


「服に位置特定装置が付けられていたとかツッコみたいところはあるけど、まぁ、その公爵の娘のおかげで割とのんきに過ごせてたんだな。……一言言って良いか?お前の本能、すごいな。」


「それを言うならお互い様だろ?」


酷く驚いたように俺の本能をとやかく言うが、それを言えばバルドも同じだ。


恐らく本能的に俺が男だと気づいて俺にそういう気を持たなかった女好きのくせに何を言うのやら。


なんて思っているとバルドはまた盛大な溜息を吐いた。


「事情は分かった。が、考えてみろ。これはいい機会だ。」


「…………え?」


いい機会。


そういわれて何がいい機会なのかと言おうと思ったが、俺の言葉より先にバルドが語り始めた。


「公爵の娘ってことはいつかは貴族と結婚するだろう。いつかは別れる。なのにそのいつかまでの時間を求めて危ない公爵の元に帰る気か?」


「……あ。」


バルドの言う通り、俺たちは期限付きの関係だ。


いつかは、いつかは別れることになる。


それに―――――


(よくよく考えると女になるための薬を作るための材料、あれ一つ作るのに多分、平民の家が何個も買えるよな?)


魔法薬に使う魔力が宿った薬草は本当に馬鹿みたいに高い。


戻りたくても戻れないし、それに―――――――


(本当にバルドがこんな怪我を負うよう嗾けたのが公爵なら、俺は公爵の罠にハマって鳥かごに閉じ込められたことになる。さっきバルドの言っていた女は基本殺されるというのが事実なら公爵は俺が殺されたと思っているかもしれない。)


公爵の鳥かごから逃げるには今しかない。


「……解った。俺、この国でお前と暮らすよ。」


冷静に考えればそれが一番の選択だと俺は理解した。


俺の言葉を聞いてバルドは「そう来なくっちゃな」と笑顔を浮かべた。


……正直、フィオル様への心の整理はつかない。


だけどどのみち結ばれることが無い運命だったんだ。


だとしたら、いつか互いを惜しみながら別れたりすることが無いよう、死に別れtらという方がフィオル様的にもいいだろう。


「そうと決まれば引っ越しだな!ここは賃貸でさ、相部屋禁止なんだ。男二人だと狭いし、広い家に引っ越そうぜ!」


「引っ越そうって、お前、ありったけの金を持って俺を買いに行ったって言ってたのにそんな金あるのかよ。」


どこか浮かれているバルドにあきれたように言葉を投げかける。


しかしバルドの調子のいい口調は変わらず、満面の笑顔で返答が返ってきた。


「あるある!家ぐらい借りれるさ!っていうか……お前って素だとそういう喋り方だったんだな!ますますお前が好きになった!」


「……それはどうも。」


酷く浮かれるバルドを見ていると不思議とこっちまで笑顔になる。


落ち込んでいる暇はどうやらなさそうだ。


そう思い小さく笑った後、俺はバルドの引っ越しの手伝いを始めるのだった。

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