第2幕
第31話
時の流れと速いもので俺が共和国に来てからもう10か月もたち、俺は15歳になっていた。
成長を遅らせる薬や変声薬、体を女にする薬を飲まなくなった俺は少しだけ男らしい体に成長していた。
まぁ、声は依然として男にしては高い方だけど。
「おーい!リオ――――!!」
街で買い物をしていた俺は酷く聞き慣れた声が聞こえて振り返る。
するとそこには髪色を変えたバルドの姿があった。
「今帰りか?一緒に帰ろうぜ!」
バルドは俺に近づくなり肩に腕を回し、体重をかけてきた。
すこし男らしい体になったとはいえ、バルドと俺の体格差はすごい。
身長は多分30センチは違うだろう。
バルドはこの一年で随分背が伸びたと思う。
だから本当は俺もバルドにの肩に腕を回して歩きたいけどそれは我慢する。
「おっ!バルにリオ!今帰りか!?相変わらず仲いい兄弟だな!」
「へへ、だろ?いい色男兄弟だろ?おっちゃん!」
バルドはかぶっていたハンチングを軽く持ち上げて顔を見せて近くの肉屋の店主に笑いかける。
バルドのかぶっているハンチング、そして肉屋の店主に話しかけられたことで俺はアーノルドおじさんを思い出した。
バルドがかぶっているハンチングはアーノルドおじさんに餞別にもらったものらしい。
今でも大事にしているのを見るとバルドにとってアーノルドおじさんは本当にかけがえのない人だったに違いない。
まぁ、俺にとってもそうだけど。
そしてまぁ、場所が変わっても俺たちの行きつけの店が肉屋という事は変わりなかった。
ただ、大きく変わったことと言えば俺たちはバルとリオという名の兄弟として生活を始めた事。
そしてもうひとつ大きく変わったことと言えばバルドの顔にもう一つ傷が増えた事だ。
昔住んでいた場所に比べて治安が悪いのもあって、襲われそうになっている女の子を助けようとした際に傷が増えた。
バルドは男の勲章と言って傷がついた顔をむしろ誇らしく見せびらかしている。
そんなバルドは相変わらず女人気が高い。
逆に俺はというと昔ほどモテなくなった。
歳の割にチビだという事で恋愛対象という土俵に上がれなくなっていた。
酷く悔しい話だ。
「そういやリオ、今日の飯って何?」
「シチューだけど?」
「おっ!やりぃ!俺の好物。」
バルドは嬉しそうに笑うと何故か俺の頭をかきむしる。
昔はこんなことしてこなかったけど俺が男だと解ったからか、短髪がかきむしりやすいのか、バルドはことあるごとに俺の頭をかきむしるようになった。
「俺もお手伝いさせてもらいますかな~。」
「いや、お前はいいよ。お前が野菜切ると食べれるところ減るから。」
「えぇ~……。」
男二人、気兼ねない日常。
その日常が俺のぽっかりと空いてしまった恋心を埋めるには十分だった。
時間が解決してくれる。
それはよく聞く話だ。
まさにそれがその通りだったとは思いもしなかった。
だからこそ俺はひどく驚いた。
「…………え?」
家に帰ってすぐに見た新聞。
その新聞にフィオル様の記事が大きく書かれていたことに。
(行方不明になっていた公爵家の関係者たち、無事に帰還。功労者はエルシオン公爵家の嫡子?)
行方不明。
そのワードに俺はひどく肝を冷やした。
酷く気になりすぎて読まずにはいられなかった俺はそのまま新聞を読み進めた。
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約11か月ほど前、王都で公爵家の会議が行われるに際し、各家紋から会場に向かう道中に起きた失踪事件。
その実態はなんと帝国の隣国であるウェーベルンの魔法使いたちにより軟禁されていたとのこと。
ソードマスターの多い帝国だが、魔法に関しては帝国よりもわずかにウェーベルンの方が発展していた。
公にはされていなかったが公爵家の嫡子たちがウェーベルンの魔法使いたちにより軟禁されていた為に戦況は膠着状態となっていたが、数日前、エルシオン公爵家の嫡子、フィオル・エルシオンがソードマスターに覚醒するや否や、その力をもってウェーベルンの魔導士を制圧し、行方不明となっていた公爵家の人々たちが誰一人かけることなく現当主たちのいる野営地に合流。
そして合流するや否や、エルシオン公爵家の3人のソードマスターの力をもってウェーベルンは攻め込まれている。
戦争は程なく終戦を迎えると予測される。
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「…………。」
戦争がまだ終わっていない。
それは知っていた。
だけど公爵家の人々が行方をくらませていたというのは知らなかった。
いや、普通、伏せられていたのなら知らないのは当たり前なのかもしれない。
……だけど――――――
「なぁ、リシア。俺本当に手伝わなくていいのか?」
今俺の頭に肘を乗せ、話しかけてきている人物は違うだろう。
「……バルド、正直に答えろ。お前、これについて知っていたのか?」
俺はバルドを苛立たし気に睨みつけるのだった。
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