第16話
「……痛い。」
「それくらいで済んだことをありがたく思う事だね。」
フィオル様の冷めやらぬ怒りのままにカレイドはぼこぼこに蹴ったり殴られたりされた。
流石に剣はあくまで脅しで使わなかったフィオル様。
だけどまぁ……ある程度気分がすっきりするほどにカレイドはぼこぼこにされていた。
「いや、本当に悪い。絶対男だって自信があったんだ。こいつはその……――――」
「別に濁さなくていいよ。僕が男が好きだってことは彼女も知ってる。」
俺がフィオル様の恋愛対象を知らないと思ってか言葉を濁してくれるが俺が知っていることをフィオル様が告げる。
するとカレイドはまたひどく驚いて見せた。
「ううう、嘘だろ!?わかってんのにそいつに身体ゆるしてんの!?」
「カレイド、下品だよ?黙ろうか。」
酷く驚くカレイドに涼しい顔して叱責するフィオル様。
そんな二人のやり取りにまたバルドとのやり取りを思い出してしまう。
(もうすっかり元気になったかな、バルドの奴……。)
出来れば余分に渡したお金で元気に過ごしてくれていると嬉しい。
そう思うけど結局は願う事しかできない。
実際にバルドがどう過ごしているかを知るには公爵に近況を聞かなきゃならないけど、それを聞ける公爵は今傍に居ない。
公爵の不在の今、フィオル様に聞けばいいんだろうけど、バルドは男だ。
ヘタな勘違いを産まない為にも言わないほうがいいに違いない。
でも――――――
(また、会って話したいよ、バルド。)
あいつの馬鹿な声が聴きたくて仕方ない。
また何も考えずに夜更かしをしたい。
もう一度、元気な姿が見たい―――――。
(いつか、叶うだろうか。)
俺はただただ静かに二人の喧嘩を聞きながら窓の外の空を眺めた。
・
・
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「いやぁ本当、あいつもあんなに怒らなくてもいいよなぁ。」
カレイドとフィオル様がいい合ってしばらく。
公爵の代行の仕事でフィオル様が席を外すとカレイドはフィオル様の愚痴を言い始めた。
「味方はしませんよ。女性の部屋に侵入した事実は変わらないので。」
俺の本当の性別はどうであれ俺は今薬を飲んで体も女性だ。
女性であることには変わりがないわけだから彼を許す必要もないわけだ。
「あはは……ごめんって……。」
苦笑いを浮かべながら軽い謝罪を向けてくるカレイド。
その姿を見ていると本当に彼にバルドを重ねてしまう。
「なぁ、許してくよ。あんたが許してくれるって言ったらあいつも許してくれると思うんだ。なんでも頼みを聞くからさ!」
「…………え?なんでも?」
調子のいい声でなんでも頼みを聞くといわれ、俺は少し反応してしまった。
調子はいいような口ぶりだけれど、彼はあの誠実と噂のグルバンテス公爵家の人間だ。
難しい要望でなければ願いをかなえてくれるかもしれない。
(……聞くだけ、聞いてみようかな。)
少しだけ悩んだ。
彼は俺が男かもしれないと疑ってきたという事は多少なりとフィオル様の恋愛事情に関心のある相手。
この間フィオル様が逢瀬を楽しんでいた相手とは別人そうだけど、彼もそういう相手の可能性はゼロじゃない。
だから相談するべきか、やめるべきか悩んだ結果―――――――
「……フィオル様に内緒で、近況を調べて欲しい相手がいるんだけど、可能?」
個の要望が自分にとって不利に働くかもしれない。
そう思うけど俺は問いかけた。
リスクを冒してでもバルドの近況を知りたい。
そう思ったのだ。
「取引成立、って感じか?いいぜ。調べてやるよ。その代わりあんたからもフィオルに俺を許すって言ってくれよ?」
誠実。
そんな言葉が似合わないような笑みを浮かべるカレイド。
どこか悪だくみをしている子供のような笑みに一瞬警戒心を覚えるものの、ここまで口に出したのだから言い切るべきだと俺は覚悟を決めて頷いた。
「うん、約束する。近況を知りたい相手については――――――」
俺は別にいうなと言われていないことから公爵家に来た理由を話した。
そしてその理由となった人物であるバルドのことを話すとカレイドは悪戯な笑みを崩し「大変だったな。」と言葉をかけてくれた後、近況を調べることを約束してくれたのだった。
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