第17話
「ってことで、許してくれよ。フィオル~。」
リシアとの取引尾を終えしばらく。
カレイドはフィオルの執務室へと赴いていた。
「……リシアが許したのなら僕が許さない理由は不服ながらないから許しはするけど……で?君はどんな条件を出して許したんだい?君の事だ、何でもするといったんだろう?」
執務室で眼鏡をかけ、黙々と執務に勤しむフィオルはカレイドに視線を向けた。
「や~っぱ気になる?」
カレイドはフィオルに問いかけられ、いたずらっ子の子供のような笑みを浮かべた。
これから悪さをしますと言わんばかりの表情。
そんな彼だが――――――
「悪いけどお前には秘密で頼まれてくれって言われてるんだよね~」
挑発するかのごとくフィオルに言葉を投げかけた。
お前には言えない。
そんな頼み事だ。
そう挑発するかのように発せられた言葉にフィオルは羽ペンを折ってしまう。
ついつい力が入ってしまったのだろう。
何時も朗らかな笑顔を浮かべているのに今日はやけに感情的なようだ。
だが、そんな感情的な姿も長く続くことはなかった。
「……大体想像はつく。バルドという青年の近況について調べて欲しいとでも言われたんだろう?」
冷静を取り戻したフィオルは執務机の引き出しから新しい羽ペンを取り出しながら淡々とカレイドに言葉を投げかけた。
カレイドは驚いてたように「わかってたのか。」と答えるとフィオルは笑みを浮かべた。
「嫉妬なんてしないさ。だって、彼女は無類の女好きらしいからね。バルドという奴は”男”。僕と彼ははなから同じ土俵にいないのだから。」
面白そうに笑いをこぼしながら語るフィオル。
そんなフィオルの言葉に苦笑いを浮かべながらカレイドは言葉を発した。
「何々、もしかしてお前、お前の本当の性別、あの子にばらしてるわけ?」
「いや?ばらしてないよ。使用人たちもばらした様子もないし、本能的に察してるんじゃない?男は恋愛対象外どころか、どちらかといえば嫌いという情報も仕入れてるんだけど、面白いよね。僕には簡単に付け入るスキを与えてくれたんだ。」
穏やかにほほ笑みながら書類と向き合い、笑みを浮かべるフィオル。
そんなフィオルに対しカレイドは恐怖さえ覚えた。
計算高い人間。
カレイドにとってフィオルの印象はその印象が強かった。
「可愛そうに。本能でお前を”女”だと理解してはいるものの、あの子はお前の本当の性別は知らないわけだろ?騙されてるって言っても過言じゃない上、それに――――」
「……それに、なんだい?」
中途半端なところでカレイドが言葉を止めるとフィオルは羽ペンを置き、指を組んだ上に顎を乗せてカレイドを見つめた。
するとカレイドは観念したように言葉をこぼした。
「いんや?単純にお前にせよ、公爵にせよ、あの子は厄介なもんに好かれてるなぁって思っただけ。気づいてないかもしれねぇけどお前、かなりあの子に”執着”してるぜ?マジでビビったっての。今までどんなお前のお相手の男の裸を見ちまってもあんなふうにキレられることはなかったってのに、今日はお前、俺の目ん玉くりぬくって言ってたんだぜ?」
カレイドはどこか挑発的に言葉を口にしてフィオルに言葉を投げかけた。
そしてその言葉を受けたフィオルは笑みを浮かべた。
「血は争えないってことかな。僕って執着心強めだったなんて初めて知ったよ。で、それを知っての感想はどうなのかな?フィアンセ様。」
「いいんじゃねぇの?俺は大歓迎。お前がいつか公爵潰してリシアだっけ?あの子を愛人にしたときはそれはそれで楽しませてもらうさ。お前は知ってるだろ?俺は愛らしいレディ同士の逢瀬を邪魔するような奴じゃないって。な?フィアンセ殿。」
フィオルとカレイドは互いに含みのある笑みを交わし合う。
そしてそんな二人の会話をリシアはかけらも知ることはないのだった。
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