第34話

「リオく――――ん!あいたかったぁ♡」


店に入って席につくなり、俺は綺麗なお姉さんたちに抱き着かれた。


でも何もそれは俺だけじゃない。


「もぉ~!全然会いに来てくれなくて寂しかったじゃない、バドぉ!」


女好きな色男兄弟。


俺たちは夜の店ではちょっとした有名人だった。


金払いはそこそこ。


それでいてなんてったって顔がいい。


是非相手にしたい客という事でお姉さんたちに人気だった。


「ねぇねぇ、リオ君は今日何食べるの?」


「お姉さんのおすすめ!今日は兄さんもちだから何でもいいよ!」


「あっ、こらお前!一応は遠慮しろよな!?」


注文を聞かれて上機嫌に答えると俺の声が聞こえたらしい。


バルドが急いで釘を刺してきた。


「おーい、フィーアちゃーん!こっちのテーブルお願いできるかい!?」


「あ、はーい!」


今俺に料理の注文を聞いてきたお姉さん、フィーアさんがスタッフに呼ばれてしまう。


するとフィーアさんは寂しそうに「また戻ってくるわね。」と言い残して席を離れて行ってしまった。


「……なんかお姉さんたち忙しそう。」


「まぁ、人探しに来てる客もいるだろうからな。言っただろ?基本的に奴隷商に女の子は売られないけど基本的にだ。売られてこういう店で働いている場合もないわけじゃないからな。」


「あ~なるほど。」


いつの間に頼んだのやら既に飲み始めているバルドの話を聞きながら俺も俺の分のお酒を探す。


何にしようかと迷っていたその時だった。


「リオ君、今日は安いお酒にしておきなさい?」


メニュー表をひょいッと取り上げ、バルドがけち臭い事を言ってきた。


「自分が払うからってそれはなくない?」


「あ~違う違う。人探しが目的の奴は終わり掛けはいなくなる。俺らはその時間に豪遊しようってわけだ。」


俺が不服そうに問いかけるとバルドは不敵に笑った。


確かにせっかくお姉さんがいる店に飲みに来たというのに全然お姉さんがいない仲いいお酒を飲むのはつまらない。


「いいねぇ。いう通りにしとくよ。」


昔みたいな気の置けない異性の友人という関係も悪くなかったけど今みたいな悪いことを一緒に楽しめる同性の友人というのはなかなかどうしていいものだ。


俺はバルドの言う通りやすい酒を頼んだ。


そして店の客が一組、また一組と減っていくと俺たちはようやく高い酒を飲み始めた。


「はい、リオ君、あ~ん!」


いい感じに酔いが回り始めた頃、俺は綺麗なお姉さん型に可愛いマスコットとして沢山餌付けられ始めた。


「バルぅ~このお酒飲みたぁ~い!」


「いいともいいとも!頼もうじゃないか!」


バルもすっかり酔って上機嫌。


財布のひもは今もはや抜け落ちているかもしれない。


(ま、バルドのおごりだしいっか!)


バルドもひどく楽しんでいる様子だし、俺は俺で楽しもう。


「んん~!!この肉すっごくおいしい!!」


お姉さんに食べさせてもらうお肉は謎のおいしさがある。


「「リオ君たらもう、かわいい~!!食べちゃいたいっ!!」」


俺の食べる姿は可愛いのか、俺の両端に座っていたお姉さん方がまるでぬいぐるみを抱くように俺を抱きしめてくる。


スタイルのいいお姉さんの柔らかな感触、おいしい肉料理。


俺はひどくテンションが上がっていた。


(あぁ~幸せ!自由って最高!!!)


俺は体系、バルドは仕事柄で恋人は作れなかったりするけど、こうやって綺麗なお姉さん方に囲まれているだけど十分幸せだ。


この幸せが続けばいいな。


なんて思いながらお姉さんたちに抱きしめられながら肉をかみしめる。


「はい、リオ君。こっちの料理もたべるでしょ?あーん!」


俺の口の中の者がなくなった頃合いを見計らうと俺の口元に次の料理が運ばれてくる。


俺は上機嫌で口を開け、差し出される料理を口にしようとした。


その時だった。


「駄目じゃないか。誰彼構わず餌付けられるなんて悪い子だね。」


(…………え?)


酷く、酷く聞き覚えのある懐かしい声。


女性たちの黄色い声に混ざってもしっかりと聞こえる中性的な声。


その声に驚いていると突然俺の顎が持ち上げられた。


これでもかというほど高く顎を持ち上げられたその次の瞬間だった。


俺の唇は真上から塞がれるのだった。

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