第33話

戦争が終わり、共和国の大都市は賑わいだした。


バルドが言うに戦時中連れてこられた人間を探しに各国の人間が訪れているのだとか。


おかげで情報屋も大忙しだとバルドは連日疲弊して帰ってきていた。


「ねぇリオ君?これもうちょっと負けてくれない?」


「負けたいけどだーめ!稼ぎが合わないと俺、店長に食べられちゃうもん。」


連日大忙しなのは何も情報屋だけじゃない。


俺が今働いているのは共和国の郷土料理、バッフェルという肉料理の露店だ。


バッフェルは分厚い肉の中に具材を撒いて食べる料理。


そんな料理を売る露店の看板少年として俺は働いている。


バルドと過ごすうちに俺も調子のいいことを言うのが少し得意になった。


歳の割に小さいから女性の恋愛対象になることはほとんどないけれど、マスコットみたいな存在として可愛がってもらうことは少なくない。


そしてマスコットみたいに可愛がられてから自覚したけど俺、肉食系のお姉さんが好みらしい。


年下も可愛いなって思うけど少し物足りないと感じるようになっていた。


全く、誰に性癖をゆがめられたやら。


「リオちゃ~ん、今日はもう上がっていいわよ!お兄さんがお迎えに来てるわぁ♡」


「あ、はーい!」


少し離れたところから歩きながら俺に声をかける人物。


筋骨隆々で野太い声で女性の口調で話す男性。


俺が働いている店の店長だ。


なんでも店長はバルドに一目ぼれしたらしく、バルドにお近づきになろうと俺を必死にアルバイトに誘ってきた人物だ。


すると意外な事に店長の下心も話したのにバルドはせっかくなら働かせてもらえと言ってきた。


なんでも筋骨隆々でまがったことが嫌いな店長が何かあった時にボディーガード替わりになりそうだなんだとかで……。


「さっきのお客さん、すっごくきれいな人だったな。スタイルもいいしいい感じに色気も合って。」


「だよなぁ~。遊ばれてもいいからお近づきになりたいよ。」


女好きが二人そろえば会話なんてこんなものだ。


何より二人とも今は女性との交流関係があまりないからだろう。


バルドは昔より恋人ができにくくなった。


モテるのは変わらないけど、この国での情報屋の仕事は時に危険だったりする。


恋人を巻き込まないよう、あまり大事な人をつくらないようにしてるんだとか。


だけど誠実さにこだわるバルドに火遊びなんてできるはずもなく、恋人は作りたくても作っていないという感じだ。


「……なぁ、リオ。久しぶりに行かないか?」


「……俺も行きたいって思ってた。」


俺たち二人はどうやら同じことを考えついたらしい。


そして―――――


「「じゃんけんポン!!!」」


往来でいきなりじゃんけんを始めた。


「やったね!俺の勝ち!!!」


勝利を収めたのは俺だった。


このじゃんけんは何のじゃんけんかというと――――――


「それじゃ、今日の飲み代はお前もちな!」


そう、飲み屋の支払いじゃんけんだった。


俺らは兄弟という設定だがあくまで友人だ。


支払いとかは公平に決める。


この国は15歳から成人とみなされ、飲み屋にも行ける。


飲み屋に初めて連れて行ってもらったその日、俺とバルドは少しだけもめた。


バルドがたくさん飲んで、俺がたくさん食べて、割り勘が割に合わないともめたのだ。


次からはそんなことが無いようにと最初からどちらのおごりかを決めるルールとなった。


「はぁ……頼むから綺麗な女の子に頼まれても高い酒入れるなよ?」


「はいはい!わかってるって!!」


財布の中のお金がどれだけなくなるか。


それを想像してか少し切なそうな顔をするバルドに対し、満面の笑みの俺。


そんな俺らのやり取りを木に泊めている人物がいる事を俺たちはかけらも気づくことなく飲み屋へと向かうのだった。

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