第35話

戦時中人が売られたならばまず最初に尋ねるのはファッシバルド共和国。


そういわれるだけあって戦後の今、ファッシバルド共和国はひどくにぎわっていた。


沢山の人が戦時中に攫われた人間を探しに来る。


それは彼女たちも例外ではなかった。


「さてと、ここにいると良いんだが……。」


深々とローブをかぶりながら地図を広げる青年。


彼はラグラルク家の次男、カレイドだった。


「いたとしてもまず見つけられるかだな。……というか正直、見つけないほうが幸せなんじゃないか?お前、本当に彼女を公爵家に連れ戻す気か?」


カレイドは盛大にため息をついてすぐ隣の人物に話しかける。


するとすぐ隣の人物は満面の笑みで言葉を返した。


「愚門だね。もちろん連れて帰るよ。なんたって公爵に”無事に彼女を連れて帰ってきたなら交際を認めよう”って言われたんだからね。」


カレイドのすぐ隣にいた人物、フィオルはディオルドが出した条件に魅力を感じ、何が何でもリシアを連れて帰ることを決めていた。


それに何より――――――


「第一、彼女は僕だけのものだからね。もし小汚い男どもにいやらしいことでもされてようものなら助けてあげないといけないじゃないか。なんたって彼女は”無類の女好き”だからね!きっと今は一人心細いだろうに。早く見つけて一生僕の傍で可愛がってあげないと。」


リシアに会えない期間がフィオルの中の執着を増幅させていた。


それを嫌というほどにわかってしまっていたカレイドはもしかするとどこかで幸せに暮らしているかもしれにリシアに同情するのだった。


(俺的にあいつ、女だらけの身に売られてたらウハウハだと思うんだけど……。)


カレイドはひどく情報通だ。


だからリシアが公爵家に行く前の情報も役に立つかもしれないと今回のリシア探しの前に改めてリシアについての情報をたくさん仕入れていた。


それで知った女好きの加減。


カレイドは情報からリシアにとっての幸せは公爵家に連れ戻さない事だろうと思わずにはいられなかった。


そんな時だった。


「負けたいけどだーめ!稼ぎが合わないと俺、店長に食べられちゃうもん。」


カレイドの耳になぜか行きかう人々の喧騒の中でひときわはっきり聞こえる声があった。


聞き覚えがないはずなのにどこか聞き覚えがある気がしてくる。


酷く気になり声がした方を向いたその瞬間だった。


酷く見覚えのある骨格の人物が目に入った。


ほんの少しだけ記憶とは違うけれど、非常によく知る人物と似ている。


(まさか……いや、でも髪色も声も違うし、そっくりな奴って場合も―――――)


あくまで似た人間だろう。


調子のいい言葉を口にして笑う姿はいつも恥ずかしがっている探し人とは別人に思えた。


しかし――――――


「…………こんなの、やっぱり運命としか思えないよ。」


すぐ隣にいるフィオルが嬉しそうに言葉をこぼす。


カレイドがフィオルの顔を覗き込むとフィオルはとても幸せそうに微笑んでいた。


「こんなに人が行きかう中でもすぐに見つけられたなんて……運命としか言えないよね?だろ、カレイド。」


幸せそうに微笑むフィオル。


そのフィオルの反応を見て記憶の中の人物と雰囲気が随分と変わっている人物の正体をカレイドは確信するしかなかった。


「そうだな。多分、運命だよ。」


嬉しそうに、愛おしそうに小柄な少年を見つめるフィオル。


そんなフィオルに見つけられた少年に少しだけカレイドは同情するのだった。

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