第53話

「お誕生日おめでとう!!!リシア!!」


朝、すこし寝坊をした俺に明るい声と大きな花束を両手に抱えて起き抜け一番に大きい声を向けてくる。


「…………いや、目が覚めてすぐにこんなに盛大に祝われるとは思ってなかった……。」


なんなら目が覚めた瞬間でうるさいとすら思ってしまう。


俺の寝起きが悪ければ一発くらいバルドは貰っていてもおかしくないだろう。


なんて思うけど……


「ありがとう。素直に受け取るよ。」


俺はバルドから花束を受け取ると花の匂いを嗅いだ。


そしてその瞬間、俺はあることに気づいた。


(この花の中に埋もれて魔草が混ざってる!?)


バルドは毎年毎年俺の誕生日には花をくれた。


俺を女だと思っていたのもあるけど、俺が何より草花が好きだからだ。


だからいつも通りと思ったら…………


(全く、ばれたらどうするんだか。)


俺の鼻が可笑しいのでなければ花束からにおってくる香りの中にとんでもない魔力を帯びた毒草の香りが混ざっている。


花としては小さく、匂いはとても甘くていい香り。


だけど香りがいいからこそ恐ろしい。


この花は誰もが誘惑される程にいい香りを放つ。


それゆえ毒は毒でも命を奪う毒というよりは精神毒に近い。


上手く使えばこれは薬にもなる。


だけど恐らくバルドが俺への花束に混ぜた理由は……


(一応保険として薬にするか。でもとりあえず、使わないようにしないと。)


使ってしまったらバルドが俺に手渡したことが万が一にでもばれてしまった時大変だ。


だからこそ俺は可能な限り俺の手で集めた材料で公爵を手にかけなければならない。


だけど…………


(俺の事を考えて、俺の為に送られたプレゼントってのはやっぱりいいものだよな……。)


こんなことを思うのはどうかといろんな意味で思うけど、プレゼントはカタチに残るものがいいなと初めて思った。


貰った毒草は確かに調合してしまえば手元においては置けるけど期限はもちろんあるし、それに何より、液体にしようが丸薬にしようが簡単になくなってしまう。


だから、ふと思ってしまった。


見るだけで大切な人を思い出せる。


そんなプレゼントが欲しいと。


そして―――――――


(…………本当なら、フィオル様にも祝ってもらいたかったな。……ついでにカレイドにも。)


花に顔をうずめながら瞳を閉じて思い浮かべてみる。


もし、皆で誕生日パーティーなんてできたらどれだけ楽しかっただろうと。


(もし俺が自分の誕生日を忘れていなかったら……かなってたのかな。)


忘れていなければフィオル様に出発を先伸ばしてもらう事だって可能だっただろう。


(なんて、過ぎたことを考えても仕方ないよな。ただ、たださ…………――――――)


未来が解らない。


バルドは俺の幸せを願ってくれているし、俺が自分の幸せについて考えることを願っていると思う。


だけどどうしたってこの先間違いなく俺に明るい未来があるとは思えない。


だからだろうか。


こんなにも……――――――


(後悔……しないわけがないんだよな……。)


俺は花を抱きながら複雑な思いを巡らせた。


すぐ傍からかおる毒草。


近くでただただ俺を見守りながら微笑むバルド。


そしてもうかなうことのない妄想に心を奪われる俺たちは少しの間沈黙の時を過ごすのだった。

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