第10話

「うぅ……失敗した。」


夜、就寝前の事だ。


昼間に公爵が訪ねてきた後、急ぎ彼を追いかけ薬草が欲しいと要望を出したら半日もたたず薬草を与えてもらった。


だから忙しそうで会いかわらず言葉を交わすことも許されないフィオル様への思いを紛らわすため男らしくなる薬を開発していた俺だが、盛大に失敗した。


「何で男らしくなる薬を使って完全に女になってんだよ、俺。」


薬を飲んでしばらくするとまず股下に違和感を覚えた。


その次に胸がいつもより膨らんでいる気がした。


恐る恐るネグリジェを脱ぎ捨て鏡を見た時に俺はひどく気落ちした。


どこからどう見ても控えめな体系の女の子だと。


「とりあえずどれくらいで薬の効果が切れるか検証するか……わかりやすい様にこのまま裸で過ごして―――――って、うわぁぁぁぁあ!」


服を着ずに効果時間を検証しようと思った俺は窓に近づいてカーテンを閉めようと思った。


別にす窓のすぐ外にお隣さんの窓がある様な前の家とは違うけど、一応閉めておこうかと思い窓に近寄るとフィオル様が何故か俺の部屋のベランダに立っていた。


それに驚いた俺は急ぎネグリジェよりも近かったベッドのシーツを引っ張り、体に巻き付けた。


(どどどど、どうしよう!!!色々どうしよう!!!!!)


実のところ、俺は裸を誰にも見せたことが無い。


つき合ってる相手とだってキスまでしかしたことが無い。


そ、そりゃ俺がちょっと相手の体を触るとかはあったけど相手が俺に体を求めることはなかったし、もし脱げば男とばれる可能性もあったからだ。


だから裸を初めて見られたことへの羞恥心、そして――――――


(こ、こんな女みたいな身体見られたら嫌われるよな、俺!)


いつか男だとあかそうと思った相手に男にあるものがない姿を見せてしまった。


明かすときにちゃんと説明するにして向こうは本当は女なのか男なのか混乱するに違いない。


(ついでに部屋では全裸の女って勘違いもされてるかもだし……。)


もう嫌だ。


穴があったら入るんじゃなくて埋まりたい。


なんて思っているとバルコニーへと続く窓が開く音が聞こえてきた。


「こんばんは。リシア嬢。随分刺激的な格好をされていますね。もしかして、ご趣味とか?」


何時も通り穏やかで柔らかい中性的な声。


どこか意地悪く訪ねてくるのを聞くあたり女らしい体に不快感を抱いているようには見えない。


でも、明らかにこれからからかいますと言わんばかりの雰囲気が彼からは漏れ出ていた。


「あ、あの、えっと、その……こ、これはその、魔法薬でちょっとした実験をしてて、その結果を見るのに脱ぐのが早くて……その……。」


何を言っても言い訳がましい。


そう思うけど変な性癖を持っているとは思われたくない。


そう思いながら言葉を探しているといつの間にやら歩み寄ってきていたフィオル様に優しく顎を持ち上げられた。


「じゃあ……僕も一緒にその実験結果、確認して良いですか?」


「っ……!!」


妖艶にほほ笑みながら訪ねてくるフィオル様。


しかしその言葉の意味はつまり、貴方の裸を僕も見ていいですか?という事だ。


(いいいい、良いわけがない!い、良いわけがないけど……――――――)


無言でフィオル様を見つめているとフィオル様がゆっくりとシーツを剥ぎ取る。


初めて誰かに見せるっ裸にひどく恥ずかしくなり、顔の体温が上がる。


「あ、あまりジロジロ、見ないでください……その……ひ、人に見せるのは初めて何で……。」


俺はフィオル様から視線を外した。


するとフィオル様から楽しそうな息が漏れるのが聞こえてきた。


「本当に罪な人だ。何故そんなにおいしそうなのか……。まさか僕が女性にこんな感情を抱く日が来るとは思いませんでした。今日は味見ではなく、おいしく頂いてもいいですか?」


「えっ!?あ、あの…………。」


またうまく獲物に近づく狩人のようにそっと距離を詰めてくる。


物理的にも心の距離的にももう、逃げられない。


だけど―――――


「その、あの……は、初めてで……」


怖い。


そんな感情が何故か生まれてきてしまう。


殆どの確率で自分に訪れることが無いと思っていた行為。


その行為を求められていることに焦りと不安を感じてしまう。


相手は男色家だ。


食べてみて違うと思われればもうそれっきりになってしまうのだろうか。


そんな不安を覚えていると俺は軽々とフィオル様に抱きかかえられてしまった。


そしてそのままベッドへと運ばれた。


「安心して。怖いことはしないから。」


フィオル様はそういうと優しく俺の唇に口づけをした。


そしてそれからは本当に俺の身体を食べるようになめたり、吸ってみたり。


だけど決してフィオル様自体は服を脱ぐことなく、覚悟していたようなことは起きなかった。


とはいえずっと終始恥ずかしくて、胸がいっぱいになりすぎた俺は気づけば意識を手放し、眠りについてしまっていたのだった。

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