第55話

「……まさかここまでやりたい放題できるとは。」


以前とは違い多少の不自由は覚悟していた。


なのに依然と変わらず自由だし、何なら以前以上に自由だ。


(これと言って監視用魔道具だってつけられている感じがない。それこそ堂々と毒をつくれと言わんばかりに。)


舐められているような対応が少し気になるけど、この状況は非常に好都合。


(もし仮にも人を監視に付けられたら毒がいつ盛られたかばれてしまうしな。)


そうなればお仕置きの可能性も高くなる。


そのお仕置きは避けたいのが正直なところだし、俺は監視の目がない今を存分に利用させてもらおうと堂々と以前用意してくれた温室へと立ち入った。


植物は変わらずすくすくと育っていて、まるでここに俺が戻ってくることが解っていたかのように手入れが行き届いている。


(そう考えると公爵は一体いつ俺が本当は男だと気づいたんだろう。少なくともこの屋敷にいるときは疑われてはないなかっただろうし……。)


男だと理解していたから攫われても生きていたと解っていたのかもしれない。


(一見みられていない気がしてもどこかに公爵の目があるかもしれないから一応は気を付けないとな……。)


魔法薬では見張られているとかそんなことは感知できない。


身体の感覚を研ぎ澄ます魔法薬は頑張ったら使えるかもしれないけど、

それをつくる努力をするくらいなら毒の研究をしたい。


(とりあえず向こうは今か今かと待っているだろうし、あえてしばらくは毒を使わない。あと…………―――――)


一瞬、頭によくない考えがよぎる。


けれどその考えはきっと、最悪の未来をもたらすだけだとすぐに気づく。


(自分で服毒する事すら俺には許されてないんだよな……。)


毒をつくるなら解毒薬も。


そう思った。


身体に影響を与える薬に効果時間がない場合は影響を無くす薬も作るのが当たり前だ。


そして誤って仮に自分が飲んだ時や、自分で実験する時用に解毒薬は必須となる。


もしその自分の身体で実験する際に誤って解毒が間に合わなかった未来を想像した。


恐らくだろうけど公爵はバルドはもちろん、どこかで生きているであろうフィオル様も手にかけるような気がした。


あ、もちろんカレイドも。


(……さて、どうしたもんかなぁ…………。)


空は青々と澄み渡っている。


そんな空とは対照的に俺の心はどんよりと曇っている。


でも進むしかない俺は温室の自然豊かな香りを目を閉じて感じる。


(…………塵も積もれば山となる。無味無臭の毒を服毒させ続けられたら理想的だけど…………――――――)


問題はその間、毒を盛ったとバレた時にシラを切る演技力が必要になる。


それが俺にできるかどうか……。


(ついでに飲ませ続けるのも正直難しい。だとしたら…………―――――あ。)


とても可能性は低い。


低いけれど俺は一つ、大きな賭けをしてみることにした。


作れるかどうかわからない毒。


けれど作れたら必ず公爵を殺す毒になると確信できるもの。


(ソードマスターにだけ効く毒を……バルドがくれた花を使えば温室にある材料で作れるかもしれない……!だけど…………――――――)


作れるかもしれない。


けれどその為には一つ、覚悟しなければいけないことがある。


その覚悟を俺は改めてし直し、公爵毒殺の為の準備を進めるのだった。

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