第44話
「公爵はフィオルにリシアを探し出させて連れ帰らせようとしてるんだ。理由は簡単。女に興味はないが、昔愛した男に似た娘を近くに置いておきたいから。公爵はリシアを連れ帰ればフィオルとリシアの中を認めるって言ってるんだよ。」
カレイドという男曰く、公爵はリシアが生きているという事実だけを知っている。
美しかったから女でも売られたと勘違いしている。
そう話した。
だからこそ女同士ではあれどリシアを連れ帰ることができたらリシアを愛という鎖につないで傍に置くことを決めたのだという。
「フィオルともついてる話だが、俺とフィオルが結婚して実際のところはリシアを伴侶として迎えるって流れだ。これは俺にもメリットがある。そのメリットは伏せるが、まぁそれがリシアが男だと解った現状でも変わらずフィオルとくっついてほしいと思っている、が――――――ここからが問題だ。」
カレイドという男は突然真剣な表情を浮かべ、小さく息を吐き捨て、語りだした。
「リシアが今、男として生きているってことが非常に都合が悪いんだよ。もし”リオ”が本当は”リシア”で、”リシア”が本当は男だったとバレたら……フィオルは公爵に殺されるだろうし、リシアも永遠公爵の近くで飼殺されることになるだろう。いや、飼い殺しならまだいいが……―――――公爵は男色だ。これで察してくれ。」
彼の提案する俺が協力する事へのメリット。
それは簡潔に言えば好きな男女が結ばれハッピーエンドを迎えるための協力、という事だった。
だけどそれには公爵をどうにかする必要がある。
その為に俺と彼がリシアではない、リオと出会う流れをつくるというものだった。
「おそらく現時点、リオが明らかにリシアと雰囲気が違うから、リオへの接触は俺があんたに接触する材料だったってごまかせる。だがあまりにもこれが続くとごまかしきれず、リオの方を公爵が調べるかもしれない。まぁ……調べきれるかどうかはわからないけどな。正直、フィオルの執着が無けりゃ俺だってあいつがそうだって気づかなかったし。」
公爵にリシアだとバレる可能性は正直解らない、というのが彼の見解ならしい。
だけどそれをさておいても問題なのは――――――
「ノーリスクな協力を断ってまでバレるかわからないリスクを背負う理由って、あると思うか?それにこれはリシアがフィオルを今もなお好きな前提で話すが、大事な奴の恋路の応援になる。それだけで大きなリターンだろ?」
リシアが男だったとバレるリスクがゼロではない。
其れが彼が言う”危険”。
バレたら互いの大切な人の未来は暗雲に閉ざされ、隠し通せたなら二人の未来は明るい。
そう語る彼はさらに計画について色々話してくれて、俺はその話を聞く中で俺とお前との再会やらなんやらについての情報を求められたから仕事として情報を売って――――――
・
・
・
「で、いろいろ話した結果、俺は提案を受け入れようと思ったんだ。最終的に彼の計画的にはお前はこの街で生きてていいってことらしいしな。」
「……な、なるほど……。」
バルドは苦笑いを浮かべながら自分の考えを語る。
その考えを聞いて俺は「なるほど」しか言えなかった。
(バルドが受け入れるってことはそれなりの考えが合ってってことだよな……。でも――――)
カレイドの事を信用しているわけでも、好感を持っているわけでもないのに提案を受け入れようと語るバルド。
それだけ俺たちが取れる選択がないという事はわかる。
解るけど――――――
(俺とフィオル様が出会うきっかけを作った後の計画について、共有する気がないのが気になるというか……。)
聞いたら答えてくれるかもしれないけど、聞かないでほしそうな感じだ。
だけどきかないと当たり前だけど一抹の不安は残るわけで……。
とはいえ、バルドを信じられないって程俺たちの関係は浅くない。
(過保護すぎるんだよなぁ……。)
昔が女の姿っただからか、守ってやらないとという気持ちがバルドにはあるのかもしれない。
いや、もしかしたら薬の影響で成長できていない分、優しいバルド的には単に”弟”みたいな感じで守ってやらないと思っているかもしれない。
だけど、戦争の件もそうだ。
(バルドはもう少し俺にいろいろ、打ち明けてもいいと思うんだよな。)
秘密主義というわけではないはずなのに全然打ち明けてくれない。
それが少し寂しいというのはおかしいことなのだろうか。
当事者なのに勝手に外で話が進んでいくことが可笑しいと憤るべきなのだろうか。
……いや、それはどちらも多分間違えている。
それが解る俺が言えることはただ一つだった。
「……バルドが最善って思うことが多分最善なんだと思う。その、俺も多分、俺の気持ちから逃げ続けることはできないだろうし……。」
フィオル様に結局流されてしまった。
それは多分、俺の心がもう逃げられないという事の表れだろう。
だとしたら間違いなくカレイドの提案は”俺たち”にとって悪いものじゃないだろう。
だけど――――――
(公爵様……あの人は父さんという人間じゃなくて、父さんの見た目を愛していた……ってことだよな。)
バルドから聞いた話で理解した事。
多分だけど、カレイドの調べでは父さんと似ているだけの人物には興味がないのだとう事のように感じた。
だから公爵様が求めているのはあくまで”リシア”で、どれだけ似ていても瞳や髪色さえ変わってしまえば…………――――
(どれだけ見た目、言動が変わっても俺だってわかってくれるフィオル様から逃れるなんて……そもそもできるわけがないよな。)
これ以上嘘をつかないでいい。
フィオル様に好きだといってもいい。
色々考えなきゃいけないことはあるだろうけど、それだけでとりあえず胸がひどく軽くなったように感じるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます