第13話
「そのほかにも気になることがあるんだ。公爵は君の家族構成について尋ねたかい?」
「……いえ、一度も。」
気になることがあるといわれて問いかけられた言葉。
その言葉を聞いて俺も不信感を覚え始めた。
もう親がいないことに慣れすぎていて不思議に思わなかったけど、俺はどこからどう見ても子供だ。
成人が16歳だから究極成人しているかしていないかは不明でも、家族と共に過ごしているんじゃないかという事は聞くと思う。
だけど公爵は俺を助けてあげるといった際、俺の身元などは何も聞かなかった。
公爵家に連れて行くとなればそれこそ親の話題は出るだろうに。
それでも聞かれなかったという事は……
(もしかして情報屋で俺の情報がかわれていた?)
バルドは情報屋に公爵が情報を買いに来たといっていた。
その時、もしかすると男の情報はないが女の情報ならあると売られたか、単純に俺も俺で割と有名だったから街中で偶然情報を得たのかもしれない。
でもなんにせよだ。
(……少し、出来すぎている気がしてきた。)
生活に不自由はない上、嫌な事も強いられていないからこそ考えたりしなかったけど、よくよく考えるとそこまで見ず知らずの知り合いにただ似ているだけの子によくして、公爵家に閉じ込めておこうとするのだろう。
それに――――――
(改めて考えると薬の調合は続けたいといったとき、「毒等さえ作らなければ自由にしていいさ。」って言葉が出てきたことも気になる。ここで過ごす条件だって「逃げ出そうとしない事、自分を害さない事」なんて変なものが含まれていた。まるでいつか俺がここから逃げようとしたり、自害するかもしれない可能性を考えているような……。)
考えれば考えるほど不信感が生まれて仕方ない。
生まれて仕方ないけど――――――
(フィオル様もフィオル様だ。俺の不信感を煽っていいことはないだろうに、それでも煽るには何か事情でもあるんだろうか。)
俺が能天気で考え無しならそのまま掘っておけばいいのにわざわざ不審に思ったことを話してくれている。
公爵の事は警戒したほうがいいと忠告しているかのように。
「……多分、大丈夫だとは思うんだけどね。あの人は貴族の義務で俺を産むためにお母様と関係を持ったらしいけど女性を相手にできないわけじゃない。気を付けて。少なくともあの人は……公爵は君をもう、どこにも行けない様にしているわけだから。」
フィオル様はまるでここへ来るまでの道中、頻繁に髪に触れてきていた公爵の様に髪に触れてきた。
そのしぐさに俺は自分が男であることを隠す以外にも警戒しなければいけないことを自覚した。
手を出すつもりは無くともすでに愛した男の面影を感じる”身代わり”。
俺がそうである可能性がもう、捨てきれなくなっているのだから――――――。
・
・
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「それでは行ってくる。留守は頼んだぞ、フィオル。」
「はい、お任せください公爵様。公爵様以上に立派に勤め上げて見せますよ。」
フィオル様と色々話した夜が明け、俺とフィオル様は公爵の出兵の見送りに屋敷の門前までやってきた。
公爵は今から出兵するというのに緊張感のない穏やかな表情だ。
それだけ自分の実力に自身があるのだろうと俺は思った。
にしても――――――
(ますますわからない。好きだった男の面影を感じる俺を手元に置いておきたい割にはあっさりと出兵していくんだな。)
本当に狙いが何なのか、さらに言えば俺が公爵に疑いを向けることが正しいことなのか、わからなくなる。
「リシア嬢、君はどうか元気に過ごしていてくれ。あと、くれぐれも屋敷の外に出てはいけないよ。フィオルも決して連れ出さないように。」
公爵は俺に近づき、俺の手を取ると俺の手の甲に口づけをした。
一瞬驚くけれど貴族の男性にとってこれは多分、挨拶なのだとすぐ理解した。
理解したけど――――――
(あぁもう、一度考えだすと何でもかんでも深く考えたくなる……!)
この行動の意図を探ろうとしてしまう俺。
そんなことをいちいち探るなと自制する。
何はともあれ――――――
(屋敷から出ることはやっぱり許されないんだな。)
恐らく傍に置いておきたいけれど戦場とかに雑用とかで連れて行かないのはそういう事だと思う。
公爵家からはメイドが数人、出兵に同行するらしいから女性が雑用として付いていくことはおかしなことではないようだ。
でもそうしないという事はやはり屋敷という加護に閉じ込めておきたい理由があるのだと思わずにはいられなかった。
(その理由が何であれ、とりあえずしばらくは公爵と会うこともないし深く考えなくていいか。)
考えることを放棄しているわけではない。
だけど今から戦場に行くという人に様々な疑いの目を向け、見送るのは違うと思う。
「どうか奥様共々ご無事にお戻りください、公爵様。」
俺はありきたりだけど公爵に見送りの言葉をかけた。
すると公爵はフィオル様とそっくりな優しく穏やかな笑顔を浮かべ――――――
「あぁ、行ってくるよ。」
とてもやさしげな声で言葉を返してくれたのだった。
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