βテスト踏破系配信者と動乱家族日記ー哲人継母は最大多数の最大幸福を目指すー
本埜 詩織
第1話・カンスト
ベータテスト終了間近、俺たちは現時点での最強エネミーである巨大なドラゴンに挑んでいた。カオス・デミゴッド・ドラゴン、通称CDDさんである。
「来るぞ! 見たことないやつだ!」
俺たちの頼もしい盾が叫んだ。
ドラゴンの口元が光り、ブレスの一種であることはわかった。だが、見たこともないブレスだった。
「おうよ!」
俺はそれに応え、前へと踏み出した。
スキルが起動し、肉体はほんの一瞬だけ幽体化する。これが俺のスキルの中じゃ一番付き合いの長い相手だ。ゴーストステップ。このゲームでは、このスキルがないと回避行動に無敵時間が発生しない。
「サベージ・ブレイブ!」
そこに、パーティーの中の僧侶から支援魔法が飛んでくる。
俺が受けることでこの魔法は、究極の攻撃バフになる魔法スキルだ。
その魔法を受けると同時に俺は相手の攻撃の
「ダーク・クラウド!」
同時にドラゴンの視界は黒い雲に閉ざされる。相手を視認できない状態では、受ける攻撃が不意打ち扱いになる。
同時に俺の方でもスキルが発動した。デッドマン・リープ。このスキルの発動条件は、自分の最大HPを超えるダメージ持つ攻撃の
スキルの効果は、視線の先への瞬間移動。このスキルをうまく使うというなら、発動の瞬間の視線も重要になってくる。相手の弱点部位を見ながら、無敵時間を利用して即死級ダメージを持った攻撃を喰らえ。そんな無理難題が、俺は得意だ。
瞬間移動した先は、相手の首の後ろ。同時にまたもスキルが発動した。
サヴァイヴ。そのスキルの発動条件はデッドマン・リープと同じ。そして、効果は全スキルのクールダウンリセットである。つまり、俺は今アクティブスキルが全部使える。
「グリム・リーパー!」
俺はスティレットという小さな刺剣を二本持っている。だが、二刀流スキルはそれ以上に強力なスキルを見つけたせいで後回しであり、アクティブスキルがなければ命中率は著しく下がっている。
だが、それを無理やりエネミーにヒットさせるのは、ダブル・スタブ。これを発動させることにより、ダブル・アタック、ダブル・スタブという二つのスキルが連動する。
発動条件は、全ての攻撃系アクティブスキルが使用可能であること。そして、デメリットとしてこのスキルによって発生した攻撃が弱点部位に命中しないと、HPが全損する。つまり、死だ。
ピーキーに組んだ。その分火力なら、俺が最強だ。俺のスティレットは龍の頚椎の関節に吸い込まれた。
あぁ、来た……。
これだ、こんなところにも演出がある。
これが止めの一撃だから、頚椎に当たるようにアシストされたのだ。
脳汁が溢れ出て止まらない。倒した、この巨大なデミゴッドとすら名前に入っているドラゴンを。現時点最強のエネミーを。
俺は、気取って静かに着地し、首に巻いた布を直した。
それを巻いている理由はかっこいいからだ。
そして、着地し一拍後。
「決まったー!!! 倍率何倍でた!? マッソー田ダメージいくつ食らった!?」
俺は咆吼した。マッソー田はタンクの名前だ。
最後の初めて見る攻撃。あれは間違いなくボスのラストアタックだ。極限まで防御力に特化したタンクでもない限り一撃で死ぬネトゲあるあるのやつだ。
サベージ・ブレイブ。このスキルは、自身の最大HPと、自身に当たった攻撃が持っているダメージを参照する信仰形魔法スキル。もちろん無敵時間中に発動しても効果が発生する。
効果は、攻撃のダメージ÷最大HPこれをXとする。攻撃力をX倍する(効果0.5秒)、防御力を1+X倍する(30秒)。というスキルで、いかにも防御に使ってくださいというスキルだ。これを悪用したのである。
俺のHPは10。そして、防御力は魔法物理ともに50だ。だから、ほとんど何を食らっても死ぬことができる。防御系のステータスには一切ポイントを割り振らなかったのである。
「わっかんねぇ……リヴァイブ剥がれた……」
マッソー田は言った。それは異常事態である。彼は実質死んだのだ。
「しかも、私もだよ! 余波判定あったみたいだね……」
余波判定、俗にそう言っているのは、誰かがその攻撃をガードしてもその後ろにダメージが通る現象だ。
「あ、私もです!」
魔法使いも、僧侶も死んだらしい。リヴァイブ様様だ。なければ全滅だった。神様仏様僧侶様である。
「……てことは!?」
我らが誇る、最前線タンクが死ぬダメージを持った攻撃だったのだ。しかもサベージ・ブレイブの効果時間中にだ。めちゃくちゃなダメージの攻撃だったに決まっている。
俺はすぐさま自分のプレイ記録を漁った。そこにある最大与ダメージの項目には9が9つ並んでいたのだ。
「カンストいただきましたァ!!!!!」
多分開発者が想定していなかったダメージが出たということだ。だが、変にバグったりしなかったあたり、マージンの中ではあったのだろう。ともかくとして、俺が与ダメ最強なのだ。
もう、脳汁止まらない……。
「マジかよ!?」
「やったね、火力ジャンキー!」
「おめでとうございます!」
驚いてくれたり、褒めてくれたり。所詮仮想世界での人付き合いだ。それでも、俺は彼らのおかげでカンストを手に入れた。
「良し! 製品版では、オーバーフロー目指すぞ!」
「「「ええええええええええええ!?」」」
そんなこんなで俺たちのベータテストは終わった。
俺は火力ジャンキーである。ベータではプレイスキルが足りなくてできなかったことを製品版のこのゲームにぶつけたい。今ならきっと、できるはずなのだ。
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