第8話・よし、いくぞ!

 苦行のはずである、何度も何度も負けては挑んで、狂気のようにそれを続ける。

 これを、続けられる理由は簡単だ……。


Seven:諦めねぇwwww

卍最強ドリル卍:根性がすげぇwwww こうやって、慣れてきたのかwww

ダスクえっち:努力の天才wwwww


 挑戦はすでに10を超え、同時接続数はワロス曲線だ。減ったり増えたりを繰り返すアクロバティック飛行のような曲線を描いているに違いない。だが、同時に少しづつ確実に増えている。


「だって、悪くない! だって、楽しい! 悔しくてたまらなくて、いつか絶対ぶちのめしてやるって気持ちがメラメラとする!」


 ここまで死因は全部手癖だ。人間はどうやら、思考を自動化するらしい。そして、その自動化された思考を使えば使うほど、意思はそれに吸い込まれる。そんな風に思えるほど、手癖で死んでいる。


「よし、いくぞ!」


 でも、†クロ†をちゃんと成長させることができたら、俺は強くなれる気がするんだ。だから、その途中の今も、すこぶる楽しい。

 いくら強くなれると言っても、ゲームの中の話で、現実の俺は何も変わらない。

 でも、楽しかったという記憶が大切と母がいうのだ。やってみよう。


†アリス†:いけー! 不屈のクロちゃん!

ฅにゃん皇帝ฅ:やったれぇ!

ハニー・シルバームーン:ファイトー!

とワイ、ライト:これが双剣!!

ダメじゃん寿司ズ:ダメじゃないかもしれないじゃん!


「まずは開幕、硬直解除はバックステップで行う!」


 ギリギリ攻撃範囲外に離脱し、攻撃をかわすことにはもう毎回成功している。


「その後、飛び越えるように前転を起動し、背後をとって、殴る蹴るの暴行を加えましょう!」


 癖を無理やり乗り越える方法として、俺は口に出す事をおぼた。

 行動は言葉通り。ただし……。


シュバルツカッツェ:蹴ってない件wwww

卍最強ドリル卍:親の声より聞いた実況wwww

ダスクえっち:もっと親の声聞け定期


「振り返るので、右ステップで躱します。理由は左より咄嗟にできるからです」


 ここは俺の癖である。アイン・ホルンは振り返り、また飛びかかって攻撃をしてきた。


「そしたら斜め前にステップ。後ろに回り込んで、また殴る蹴るの暴行をしましょう!」


 言葉通りに行う。これをやめたらきっと俺はミスる。

 心臓をバクバクと鳴らしながら、一撃死の恐怖と戦いながら、目の前の最弱と対峙した。


Seven:親より暴行されてるアイン・ホルン

とワイ、ライト:もっと親殴れ定期

ダメじゃん寿司ズ:親殴ったらダメやろ!

ハニー・シルバームーン:語尾!!


「やめてください、笑った一敗もあるんです! 右ステェ!」


 視聴者のコメントがチラリと目に入り、笑ってしまった結果死んだこともあった。


「回り込んで、殴る! 感謝の棍棒打撃です! 街についたらすぐにダガーが欲しいです」


 この非力そうなキャラクターに棍棒は似合わないし、棍棒はバックアタックのダメージ倍率が低い。打撃カテゴリは、総じてそうである。

 ただ、打撃の長所もあって、防具が持つ防御力に減衰されにくい。また、最も作りやすい武器タイプである。


シュバルツカッツェ:一日一万回!

ダスクえっち:感謝の!

卍最強ドリル卍:棍棒殴打!

Seven:やめたれよwww ミスったらどないすねんwww


「俺の心は今、水面のように静かです。笑うことなどありません。ステ!」


 とでも言っておかないとやばい。笑ってしまう。謎の連帯感をやめろ。ボケとツッコミこなすのやめろ。何より笑ってはいけない状態で笑わせようとするのやめろ。


「ステキャンバック・アタック!」


 地味にいろいろと技術を使っている。ステップ後に縦振りの攻撃をすることで、ステップの慣性を武器に乗せることができるのだ。これがステキャンである。


吉幾三:水面には横柳には縦の風ハァ!

とワイ、ライト:吉年虹二↑の作者だ!

†アリス†:俳句有識者現れるのは流石に草生えるよwwww

ฅにゃん皇帝ฅ:名前もそれほどあってねぇ!

卍最強ドリル卍:オラこんなネタいやだぁ! 事務所へへぇるだぁ!


「やめろおおおおおおおおおおお!」


 叫んでなんとか、笑わずに済む。だが本当に危なかった。死ぬかと思った。

 ダメだ、笑ってはいけないは、笑いのツボを壊す。


シュバルツカッツェ:事務所へへぇったら! 銭こァ貯めて!

ハニー・シルバームーン:事務所で兎飼うだぁ!


「あ、よいっしょ!!!」


 最後はありもしない配信者魂なるものを、自分なりに奮起させて掛け声と共に殴りつけた。殴りつけたのだが……。


「嘘……おい……死ぬな……」


 その一撃で、アイン・ホルンの致命部位HPは0になってしまった。つまり、アイン・ホルンと決着がついてしまったのである。


「死ぬなあああああああああああああ!」


 締りが悪すぎるから……。


ダスクえっち:死因:吉幾三


「えー、この状態。皆さんご存知のとおり、実は死んでません。気絶してます。なので、アインホルンは体重が軽いので、足を持って頭を岩に叩きつけます!」


 打撃武器しかない時はこれしかない。割とここらへんは不評である。リアルすぎるのだ。死んでくれよ……。いや、死ぬなよ。

 俺の心は兎角、ぐちゃぐちゃだった。


Seven:石「ガァ!」


「吉幾三はもうええて……」


 ひどく疲れたが、これで決着。素材の量も割とリアルだ。決着してしまったのだ。

 気絶中は、全ての攻撃が不意打ちかつクリティカルかつダメージ10倍になる。気絶中に攻撃を受けるとほぼ死である。

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