第7話・貴重なDIEジェスト
「さぁ、まずは開幕! ジャンプ頭突きが基本的な攻撃手段のため、ステップのアシストを受けつつ無敵時間で攻撃をやり過ごします! すると、後ろに回り込めるので、振り返ってボカスカ殴ります!」
その言葉通りアイン・ホルンは頭突きをしてきた。チュートリアルの硬直をステップでキャンセルすると、本当に言葉にした通りの展開が作れるのだ。
これを行うことによって、アイン・ホルンから初見だと必ず受けるダメージをキャンセルできる。これを受けるかどうかで、チュートリアル初見かどうかを判断しているのだ。バックステップでもノーダメージは可能である。単純にリーチの外に逃げられる。
所見だった場合、もう一度硬直させられて回復アイテム使用のチュートリアルが挟まる。大体、初見の人は生命力にポイントを割り振るのだ。
†アリス†:可愛いそうだけど仕方ない! ウニーカ・レーテは世紀末だZE✩
ダスクえっち:これは有名だよねー! 節約して回復アイテムを余分に保持しようとして、がっかりさせられるやつ!
シュバルツカッツェ:あれ? バックアタックだから不意打ち判定出てるよね?
「筋力が今1だから、不意打ちになった一撃目しかダメージ入ってないかも!」
よって、また見失わせる必要が出てきた。俺はそう思っていたのだ。
だが、非情にも指数関数ビルドは甘くない。
視聴者さんズと話していると、アイン・ホルンは振り向いて、また頭突きを繰り出してきた。
「避けて! 一発!」
ステップでまた後ろに回り込んで、不意打ち判定で殴った。
卍最強ドリル卍:無敵時間が確か33フレームだっけ? その真ん中のフレームで食らってない?
ハニー・シルバームーン:この相手に回避ミスったら別人説出るじゃんw
闇を駆ける黄金の閃き:1フレ単位の調整で魅せプを名乗ろうとしてる? まぁ、地味にすごいの認めるけど!
「ダメかな? 無敵時間ど真ん中でくらうことで、楽しんでもらおうって思ってるんだけど」
このゲームは秒間480回、当たり判定の検出と計算が行われている。よって0.06秒とオマケで1フレームの無敵時間がプレイヤーに与えられるのだ。フレームレートは近年の技術で爆上がり、ぬるぬる動く。
こんな話をしながらも、不意打ちしては振り向かせて、また不意打ちという作業を繰り返していた。何度も同じ手で不意打ちできるのは、システム故である。
†アリス†:魅せプでいいよ! 可愛いし!
ダスクえっち:それに割とビデオ検証したらそうなってる気がするのがすごい!
卍最強ドリル卍:安定感よwwww 480分の1秒に合わせるのはキチガイww
「音ゲーと一緒! いけるいける! って……死ななくない? 10回目の不意打ちしたんだけど?」
そう、アイン・ホルンのHPは10だ。全部致命部位に当てたのに、ピンピンしてる。それが意味するところは……
シュバルツカッツェ:【悲報】βトッププレイヤー、チュートリアルで詰む
「いや! 詰んではな……」
言い終わる前に、俺はアイン・ホルンの攻撃を受け、死亡したのであった。
指数関数なんてビルドをすると、このゲームのプレイヤーは最序盤クソ雑魚ナメクジだ。弱いなんてものではない。肉体的には世界で最も弱い、哀れな存在である。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「シニマシター! まぁ、レベル1だとデスペナルティないから安心して死にましょう! あ、一応あるのか。第一スキルが剥奪されて……でも無料で再選択可能だから、実質ボーナスだな! ヨシ!」
不名誉にも、俺はアイン・ホルンに殺された。多分指数関数のレベル1の次に弱い、クソ雑魚カタツムリくらいの地位に置きたい相手に……。
ダメじゃん寿司ズ:今さっき来たけどダメじゃんw
とワイ、ライト:え? 双剣さーん? どしたんすかwwwwww?
ハニー・シルバームーン:煽るなしwwww 完全にスキル選択ミスだよね?
「いやぁ……ダメージ入ってないとは……。うん、ハニーさんの言うとおりだ! スキルミスった! ここは、ダメージ強化効果のある汎用スキル一択ってわけだ! また、ゲーム理解が進んだ! じゃあ、代わりにアサシン・エッジを取得! これで不意打ちのダメージ倍率強化で再戦だ!」
チュートリアルエリアは、5秒くらいで駆け抜けられるように設計されている。その最後に如何にも“自分、ボスですよ”という顔をしてアイン・ホルンが鎮座しているのだ。うさぎのくせに……。
駆け抜けて、再戦を挑むが……。
「シニマシター! 前ステップしちゃったよ! 無敵時間ないのに!」
一度付いた癖はそうそう抜けない。
同じようにスキルを取得して、また再戦する。今度は一発目は後ろステップで躱すが、二発目で前ステップの癖が出てしまった。
こりゃ……手ごわいぜ……。
三度目の挑戦、四発目で前ステップして死。
四回目、初っ端前ステップで死。
五回目、七発目前ステップで死。
そう、放送はDIEジェスト化してしまったのである。
ダスクえっち:もう、お前いろいろ限界だぞwww
シュバルツカッツェ:双剣の貴重なDIEジェストシーン
†アリス†:大丈夫?
ハニー・シルバームーン:無理しなくていいよ? 集中力切れたなら明日に回そ?
ฅにゃん皇帝ฅ:チュートリアル終わったら、いろいろサポートしてあげるよ? それに、ビルド変更してもいいんだよ?
「おなごじゃぁ……おなごだけが癒しなんじゃぁ……」
あぁ、だから男は女の子とお付き合いしたいんだと、魂が理解した。
女の子はこんなにも優しいものだったんだ。そりゃ、誰だって絶対そばにいて欲しい。俺だっていて欲しい。
ダメじゃん寿司ズ:なんかこいつ出会い厨みたいなこと言い出しましたよ? ダメじゃん
卍最強ドリル卍:声のせいで可愛く聞こえるから不思議。
「だって、ハニーさんとかアリスさんとかにゃん皇帝さんとか、多分女の子だぜ! こんなに優しいじゃん? 折れそうな心に沁みるんだよ!!!」
†アリス†:あ、下心ない感じ?
「ありありよ! もっと応援されたい! 褒められたい! あわよくば、一緒に冒険しちゃったりなんかして!」
下心の帝王ここに見参である。
ฅにゃん皇帝ฅ:割と……ねぇ?
ハニー・シルバームーン:うん、アイン・ブルクで待ってる
「ねぇって何!? 出会い厨だよ! フレ登録とか求めちゃうよ!」
卍最強ドリル卍:いーよー!
「ん? 男性視聴者ともそれはしたいか……」
とりあえず、今日中にチュートリアルを抜けた先の町アイン・ブルクに到達せねば。
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