第6話・チュートリアル

「ぶってるって……男……なんだけど……」


 そう、俺はれっきとした男である。身長が止まったのは小学校六年のとき。肩幅も狭ければ、変声期も家出中なのだが男である。


†アリス†:キタ――(゚∀゚)――!! 男の娘!!

ฅにゃん皇帝ฅ:男の子なのになんでそんなに可愛いキャラクリにしちゃったのかな?

ハニー・シルバームーン:女の子になりたい系? だったら、女の子名乗っていいのよ? 名乗るだけならタダだし!

卍最強ドリル卍:【朗報】必須オトコノコ酸も摂取できる

シュバルツカッツェ:いや、悲報だわ!

闇を駆ける黄金の閃き:好きになり始めてたのに!

ダスクえっち:いや待て、ついてる♂んだぞ! お得だぞ!

Seven:待て、お前混乱してないか!? 俺も混乱し始めてるが……


 ついてるだとか、お得だとか、そんなものよくわからない。


「お得なの? 女の子になりたいわけじゃないかな。男をデザインするのがすこぶる苦手なだけ! と……置いておいて! ボーナスは全部成長率にぶち込んで……あ、いけないいけない。今のアバターをデフォルトに設定して! ゲーム開始!」


 そう、男は女の子を観察するものだ。そしてあわよくばお付き合いしたいものだ。

 だって、女の子は可愛いのだ。一緒に居れば、そりゃもう癒されるに決まっている。中には、美しい外見とは裏腹に、格好いい人だって居る。あんなの、一生ついていきたい。

 だが、そんな色恋の話は置いておいて、俺はゲームを開始した。

 攻撃のチュートリアル。


『武器を振ってみてください。筋力が加速度に影響し、ヒット時の速度と入射角及び命中部位からダメージが算出されます』


 ほんっとうに、細かい……。

 そう、このゲームはいろいろなところが細かいのだ。俺が進んでいると、視聴者たちは別のことに盛り上がっていた。


ฅにゃん皇帝ฅ:待って! ボーナス全部成長に振った!

†アリス†:双剣でも指数関数は無理でしょ!? 無理だよね!

ハニー・シルバームーン:HP10で、防御力は1なんだよ! 何受けても死んじゃうよ!


 βでは、レベルごとに防御力が1づつ上がっていた。β時代のレベル上限であるレベル50では、そのせいで受けても死ねない攻撃が出て、微妙に不便だったのだ。


「んー。あのビルドは何受けても死ねるのが大事だったの。何をトリガーにしても、デッドマン・リープが発動できるじゃん? そのために生命力に一切ボーナス振らなかったの」


 そういうことである。足踏み判定でもある一定レベル以上の相手からのものであれば死ねる。だからそこに、無敵時間を当てて跳躍するのだ。


Seven:狂ってやがるwwww

シュバルツカッツェ:さすがの双剣の人wwww


 この、双剣というのは、俺のβでのビルド名だ。名前を考えるのがめんどくさかったから、適当につけた。今回は正式版だ、そこにも名前をしっかり付けよう。


「んで、刺突の場合、最高速部分は骨に当てるのが一番ダメージが出る。特に頚椎の関節軟骨にそれが当たるとダメージがバカみたいに出る! 繰り返すと、頚椎のど真ん中に剣が吸い込まれるアシストがかかってすっごいきもちいんだ!」


 それがやめられなくて、双剣をやっていた。だが、慣れるまではそれなりに時間がかかったのだ。


闇を駆ける黄金の閃き:えwwwwぐwwwwいwwww

卍最強ドリル卍:頚椎wwww

ダスクえっち:可愛い顔してこんなこと語るんだぜ? 惚れちゃうよな?


 刺突は肉に当たった時に受ける速度ペナルティが最も少ない。筋力値に少し振れば、ペナルティが消えて、それ以上は肉の中でも加速する。よって、最高速はリーチの限界の場所で訪れるのだ。


「あ、次のチュートリアル!」

『HPは部位ごとに管理されております。致命部位としてプレイヤーは頭部、頚部、上半身が存在します。その他、血液値が存在し、0で気絶、上限値分のマイナスで死亡します。その他部位は、HPが0になった場合でも死亡せず欠損し大出血をします』


 これに関しては、好みが分かれるところだ。めんどくさいと思う人もいるだろう。


「うん、細すぎるんだけど血液システムがないと回復で対人戦がすっごい長引いちゃうから、まぁ……」


 俺は擁護派だ。特に血液はないと低レベルの対人が辛い。生命力を優先して振るプレイヤーが多いのだ。だから、回復魔法などで即時回復ができない血液を削り失血死を狙う。

 かなりリアルで、過酷だ……。

 高レベルだと、俺自身の火力もインフレしているから防御ごと致命部位を吹き飛ばせばいい。


ハニー・シルバームーン:設定えぐいよねー。細かいし……

卍最強ドリル卍:普通に欠損の状態異常とかも起こるしなぁ……

Seven:βで不随の状態異常になったときは焦った……


 欠損の状態異常の一種として、不随などもあるのだ。本当にえぐい。

 ただ、付随や欠損は、魔法で上限分の10倍のHPを供給すれば回復する。


『強く後ろ足を踏みしめることで、ゲームアシスト機能がステップを起動します。また、前転をすることでローリングを起動します』


 だから、体育が苦手な人も安心だ。そして、次が最後のチュートリアル。

 どうせなので、ここは最短のタイムを出せるローリングからのステップでチュートリアルメッセージを踏んだ。


『さぁ、戦ってみましょう! 目の前に、アイン・ホルンという魔物がいます。うさぎ型の魔物で、人参を掘り起こしては農家を困らせる悪い奴です』


 最後だけなぜか、ちょっと子供向けなメッセージに感じるなぁ……。


「じゃあ、これをさっくり倒しましょう。おすすめスキルは、汎用のゴーストステップ!」


 最初のスキルだけは汎用スキルを取る限り無料だ。これを取得すれば、俺は戦えるはずである。脳内で何度もシミュレートした。

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