第14話・先輩冒険者お姉さん

 ゲーム内の街へはアリスさんと一緒に入った。

 この世界、実は少しディストピアチックなところもあり、街の中ではいくつかの行動が制限される。殺人、強盗、傷害などだ。


 いわゆるセーフエリア。PKなどができないようになっている。

 それが影響を与えていて、NPCたちが法律を作っていたりするというおかしなゲームなのだが、その法律がユルいのだ。


 結果、プレイヤーである俺たちは、法律はユルいくせにモラルは高い。その上言葉も通じて、文化は少し違う。そんな観光にもってこいの他国へ海外旅行へ来たような気分になる。……という話をアリスさんから聞いた。


 βテストでは、もうちょっと完成度が甘く、αテスト時代の戦闘システムがなかった頃に少し似ている気がする。そう、NPCはきっと魂実装済みだ。


「クロ君は、どのルート予定?」


 アリスさんは俺の半歩前を歩きながらのんきに尋ねる。身長は、アリスさんは少し高いくらいで、多分165程度だろうか。


「ぼ……冒険者……を……」


 最初のボーナスポイントは、NPCもそれぞれ違う配分で設定されている。結果過去に指数関数型成長のNPCも存在していた歴史があり、NPCとプレイヤーはほとんど差がない。NPCはこの世界から出られないプレイヤー。その程度の認識をしても間違いはないのだ。


 戦闘職の職業選択にはステータスが必ず必要不可欠で、指数関数の低レベルステータスでの選択肢は冒険者のみだったはず。


「そっかそっか! じゃあ、一応先輩になるのかな! よろしくね! あ、メンターやろっか?」


 希望制だが、冒険者にはメンターというシステムがある。高位冒険者が、下位冒険者に冒険ノウハウを与えるシステムである。


 メンターとされた冒険者は解任されるまでの間、冒険者ギルドでの手数料が九割免除される。他にも周辺の制度がかなり整備されていて、ある程度しっかり面倒を見なくてはならない仕組みだ。

 ゲームなのに冒険者ギルドが割と組合として機能している気がする。


「め……メンターは……」


 しくじってデスペナルティの経験値削減を食らうと、アリスさんに金銭補償をさせてしまうことになる。それも制度の一環だ。


「お金は気にしなくていいけどなぁ……。にゃん皇帝っているでしょ? あの子とパーティなんだけど、あの子化物なんだよ……。加工貿易みたいなことやっててお金稼いでる!」

「あ、余り物錬金術師!?」


 お世話になったひとで、俺は思わず大きな声で訊ねてしまった。


「うん! 双剣は大口顧客って言ってたし、やっぱり覚えてたんだ!」


 だって、俺はその人から何度も買い物をしている。確かマントを羽織った、ケット・シー……つまり猫獣人のプレイヤーだった。猫に好かれやすい特徴を持っていて、敏捷に微量のボーナスを持つ種族だ。

 ……俺も種族進化したい。技量にボーナスを持つ種族を狙っている。

 種族のボーナスは微量で、ガチ勢でもない限り自由に選べばいい。


「う……うん」


 そんな話をしながら歩いていたところである。


「さ、ついたよ! アイン・ブルク冒険者ギルド!」


 あぁ、ついてしまった。この世界はNPCといえど魂が実装されているのだ。

 そりゃまぁ、おかげでコミニュケーションのリハビリにはもってこいだけど。

 気楽なのは、キャラクターを作り直したり、120円ほどの課金アイテムでNPCとの人間関係をリセットできるところ。でも、一応緊張はするのだ。

 初期服のマントをフード付きにするべきだった。視聴者の言いなりになるべきじゃなかった。


「おう、吸血鬼!」

「起きてるなんて珍しいな!」


 そんな声を、あっちからもこっちからもアリスさんはかけられていた。

 一体、どんな人としてNPCたちに受け入れられてるんだかこの人……。


「失礼じゃん! あ、って確かに寝てたや……」


 アリスさんがNPCたちに返事をするとドッと笑いが起きた。

 サービス開始直後の日。まだプレイヤーたちは、遊び盛り。ログインしたらRTAよろしく走り出して、狩りに出かける。よって、ギルドにプレイヤーは少ないのだ。

 と言っても午後になれば、かなり増えるだろう。


「……?」


 寝てた、それがわからない。


「あ、そっか。ガチ勢だったもんね! ほら、アイドルアクションNO1スリープを使いながら配信見てたの」


 アリスさんはよく気づく人だった。疑問や不安をすぐに解消してくれる。

 ちょろいかもしれないが、僅かに好意を覚えた。もちろん、人間的な物である。


「あ……」


 だから、俺はさっさと理解することができたのだ。

 アイドルアクションは、その名のとおり別のことをするときにアバターに待機用のアクションを取らせることができるシステムである。


「おう、可愛いの連れてるな! 冒険者志望か!? 俺はゴジロってんだ! 困ったら頼れや!」


 そんなことがあったからだろうか。今度はNPCたちの注目が俺に向いてしまった。


「ひっ……」


 母さんは別。それに父さんはあの恐ろしさになれていた。

 ……向き合い始めてから恐ろしさもだいぶ和らいでいるが。

 とはいえ、それ以外は別だ。人間ダメ、絶対。


「今はちょっと勘弁してあげてー! この子、人見知りなの」


 NPCゴジロさんにちなんで、アリスさんはジゴロさんなのだろうか。若干のスパダリ臭を今のところは感じる……。

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