第53話・寸止め

「とりあえずレベリングです! ここからは新しいエネミーを放送で紹介するとなると次はレベル11か12ですね。このあたりにギミックで倒せるエネミーは存在しません……。というか、もうこれ以降のレベルでのギミックエネミーはかなりの高レベルまで存在しないんです。しかも、そのギミックエネミーは、基本的に四人以上のパーティー前提のボスです!」


 それが僕たちのパーティーの僧侶ヒュギエイアとの出会いのきっかけとも言えるかも知れない。新メンバーを求めた俺たちは、サベージ・ブレイブが死にスキルであると指摘されているヒュギエイアを見つけたのだ。


 だが、それはAIによって導き出されたスキルの一つ。元パーティーにおいても、汎用スキル以上の効果を出してはいた。

 だが、人間の本能は喪失に敏感だ。攻撃バフを使えないと言う喪失に踊らされてしまっていたのである。

 僕も喪失に敏感だ。だから、攻撃バフを使ってみせたのだ。


卍最強ドリル卍:りょ、何倒すん?

シュバルツカッツェ:双剣でもきついなんてあるんやなぁ……

Seven:そらそうやろ、一応、おそらく、きっと、いや願わくば人間だぞ。

とワイ、ライト:ワイトかもしれません


「いやいや、普通に人間です! 中の人ガッツリ人間です! 一般人ですよ!」


 とりあえず、僕は人間であることを肯定して、少し考えた。

 何を倒すか……。相手はできる限り攻撃系能力特化がいい。敏捷815までは、僕の動体視力と反応速度が追いつく。

 プレイヤーには限界敏捷が存在するのだ。こればっかりは、このウニーカ・レーテも克服できなかったのだ。この平均は概ね650ほどと言われている。だから僕の815は割とハイスコアなのだ。


「良し! 決めました、次はシャッテン・タッター……シャドウ・アサシンにします!」


 この世界のドイツ語風文化圏はチリのような形状だ。細長いのである。よってこのレベル帯になると、英語風文化圏との境目になってくる。

 この世界の人類同士はとても平和で、共同領有域というものがある。これは、二つの文化圏で共同管理されている地域だ。だから、この地域のエネミーは二つの言語で名前が付けられているのだ。


ฅにゃん皇帝ฅ:やめとこ?

†アリス†:死んじゃうよ?

闇を駆ける黄金の閃き:防御系の人に任せとけよ……


 ただし、この相手、初心者のトラウマ担当である。

 敏捷600、筋力200、生命力100、ユニークスキル【ナイトメア・ウォーカー】という構成になっている。敏捷が平均の限界に近く、【ナイトメア・ウォーカー】によって本能をバグらせてくる。一般的に攻撃を受けてから反撃して討伐するとされている。


「大丈夫です! いいですか? 本能をねじ伏せれば全部解決です!」


 【ナイトメア・ウォーカー】はシャドウ・アサシンと真逆の方向から殺気を飛ばすようなスキルだ。これが奴らの隠密能力の根源である。

 とはいえ、本能の反応を無理やりねじ伏せるのは、めちゃくちゃ練習が必要だ。βでシャドウ・アサシンに何度も殺された。でも、あの時のビルドなら一撃で殺せたのだが……。今は推定50発である……。


ダメじゃん寿司ズ:無理じゃん! 死ぬじゃん!

ダスクえっち:ねじ伏せられないから、本能って言うんだよ!!

松ッソー:うちの双剣なめんな! できらぁ!


「来てくれたのか!? って、名前変えてたんだ!?」


 しかし、びっくりだ。マッソー田が松ッソーになってしまった。きっと僕と同じ苗字だ。松田なんて苗字どこにでもいる。大して珍しくない。


松ッソー:おうよ! 名前に筋肉感じるだろ!?

腐海の魔女:クロくんの周り、ムキムキ過ぎて妄想がムキムキになる……

ダスクえっち:それな!

闇を駆ける黄金の閃き:それなじゃねぇよ! おまわりさーん!


「まぁ、よくわからないけど、とりあえず出発だね! ツヴァイン・ヴィレッジへ!」


 ドイツ語と英語が混在した地名も共同領有域の特徴だ。これからはツヴァイン・ヴィレッジを中心に活動することになる。


ハニー・シルバームーン:クロちゃん新しい街へ!

卍最強ドリル卍:すごい心配になってきた……。

腐海の魔女:影の暗殺者襲来! 次回:元双剣堕つ……

ฅにゃん皇帝ฅ:薄い本はダメです!

†アリス†:ねえやめとこう?

メディナ:これ以上引き止めないでもらおうか? 私たちは、彼がクラン設立できるレベルに到達するのを待っている。


 なるほど、だからあんまり干渉してこないのか……。

 早く設立したいなぁ……。確かレベル30だ。指数関数ビルドが、成長力第二位のビルドに追い上げをかけ始めるレベルだ。

 僕は、ツヴァイン・ヴィレッジに向けて踏み出した。だが、ふと気づいてしまったのだ。


「あ、先にアザレアさんとかに挨拶しよう!」


 新章突入のような雰囲気を醸し出しておいてこれである。視聴者たちはずっこけた擬音を各々コメント欄に書き込んでよこした。


「ごめんて……。この町のNPC達とも、それなりに思い出があるんです。このゲームのNPCは単なるNPCとして扱えないですね……」


 少なくとも僕はそう思っている。AIは発展しすぎて、まるで擬似人格なのである。だから、僕にはNPCだからと邪険にすることができない。

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