第52話・ウニーカ・エクステッレテ

 僕は外に出ることができた。これはひとつの成功であると考えてもいいのではないだろうか。もうそういうことにしておこう。長く引きこもっていたのが外出をしたのだ。肯定せずなんとするか。


 家に帰ってくると、運動をしたなと言う清々しい感覚が体にみなぎって来た。運動は思いのほか気持ちがいいのだ。

 そんな事を僕は放送で話していた。


「……ということがあったので、配信遅くなりました! すみませんでした!」


 ギャグマンガのような展開もあって、面白いとも思う。それに配信者としての礼儀もあるだろう。


卍最強ドリル卍:最高か? いや、普通にいい話だが!?

Seven:これは許さざるを得ない。

ダメじゃん寿司ズ:ダメじゃん、家族モノのワンシーンじゃん!

ハニー・シルバームーン:しかし、クロちゃんはリアルだと運動音痴かぁ……

ฅにゃん皇帝ฅ:はじめてって、背景が気になるけど……

闇を駆ける黄金の閃き:てか、小学生と身長があまり変わらないwww


「うーん、そっか背景言ってなかったね。うちのお父さんすごく不器用なんだ。だから、将来苦労しないようにって沢山勉強ばっかりさせられてさ。でもテストでいい点とっても褒めてくれたりはしなかったんだよ……。他にもいろいろあって、なんかね人間味が消え失せちゃってた。正論しか言わなくて、典型的なロジハラ大魔王になっちゃってたんだ……」


 僕はそのことから、過去を全部包み隠さずに話すことにした。何があったのかを、これまでどうしてきたのかを。そして、僕が立ち直っていっている途中であることを。


†アリス†:ごめええええん! 私、本当にひどいことしちゃったね……。自分勝手だったごめんねえええ!


 アリスさんは自分が一方的に悪いことにしてしまう。


「僕もアリスさんのことをよくわかってなかったまま逃げちゃいました。お互い様ってことにしてくれませんか?」


 僕だってアリスさんのこれまでの人生を知らない。だから、きっとそのせいですれ違った部分だっていっぱいある。人と関わっていくとき、僕たちは人を知ろうとしなければいけない。


シュバルツカッツェ:ほんまええ話やでぇ……

とワイ、ライト:ワイもそう思います。

ダスクえっち:俺らの最高のヒロインだ……


 がしかし、僕の立ち位置はヒロインらしい。それでも僕はヒーローになりたいのだ。誰かの心に寄り添えるような、そんなヒーローになりたいのだ。でもそのために、どこかヒロイン的でもいいのかもしれない。


「でさ、僕はひとつだけ言いたいの。誰かが僕のようになったとき、気づいてあげられる誰かが増えて欲しいなって。でも、僕が言うのも変かもね。まだ再出発中。でも、いつか僕は気付ける人になりたい。だから僕は、心理学を学びたい」


 目指すのはカウンセラー。応援してくれる父には悪いけど、イラストレーターにはならない。


卍最強ドリル卍:ドリルちゃんマジ応援したくなってきた! どうしよう……

ฅにゃん皇帝ฅ:その夢に課金させろ!!!

闇を駆ける黄金の閃き:まだ、収益化のシステムないんだっけ?

†アリス†:私にも問題があったのかなぁ……。ちょっと見つめ直そう……。


「気持ちだけで十分! 僕の両親は健在だし、今はたくさん応援してくれる! 外にも出て、引きこもりも卒業しました! 登校を目指しての準備もしてるし、十分だと思うよ!」


 精神科の先生とカウンセラーはちょっと違う。科学的な助けをくれるのが精神科の先生。それで、医師免許を持っていればこの先生にはなれるのだ。

 カウンセラーは不足気味らしい。日本ではこの職業の力が軽視されている。心の持つ力が軽視されている気がするのだ。


ฅにゃん皇帝ฅ:すごいよ、クロくん。 あ、アリスは手伝うからね!

闇を駆ける黄金の閃き:不登校って心の問題よなぁ。

キャップ:私もそう思いますよ。ただその背景には、ご両親の社会的な問題があって、社会には心の問題があるのかななんてw

Seven:この人心理学者か何か?


 先生まで見に来た。本当に先生はたまにゲームをやっているみたいだ。


「にゃん皇帝さんありがとう! それと、僕は本当にメンタル的な問題で不登校になったね……。これからちゃんと登校するけどね!」


 そう、一歩一歩、一気にレベルを上げるのは大変なのだ。ステータスを積み重ねて次の問題という社会ゲームのエネミーをやっつけないといけない。


†アリス†:にゃん皇帝……愛してる……

ダスクえっち:おう、百合が咲いたぞ

キャップ:待ってますよ。でも無理はしないでくださいね。私は逃げませんから

Seven:この人ママか何か?


 先生がどんどんカオスになって笑ってしまった。確かに、字面で見るとちょっと母性的に感じるかも知れない。

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