第54話・咲き誇る

 そんな放送を経て、僕はアザレアさんのもとへ向かった。


「こんにちは、アザレアさん! いま放送中なのですけどいいですか?」


 とはいえ、僕は放送をしていて、既にアザレアさんを映してしまった。これは、アザレアさんだったからよかった話なのだ。


「私は構わないが、私以外の時は先に確認を取っておく方が無難だぞ。人によっては、多くの人に知られることを嫌がるかも知れない」


 だから、アザレアさんに咎められてしまった。

 本当に想像能力と共感能力に優れていると思った。この世界のNPCたちがきっとそうなのだ。多分それはヒヒザクラの支援による能力だから。

 よくよく考えれば、これまでも無断で配信に移してしまったりしたな。どこかでまだNPC扱いをしているのだ。気を付けよう。


「そ、そうでした! ごめんなさい!」


 非の打ち所がないしてきだと思う。これは本当に、次回は二度とやるまい。


「うむ! よくぞ理解してくれた!」


 本当にこの人は人たらしである。僕はそう思う。


卍最強ドリル卍:アザレアっちマジ神

Seven:ママかこのNPC?

ヒュギエイア:すごい優しい方ですね! 製品版のNPCAIはすごいです!

メディナ:彼女とは是非友人になりたい


 アザレアさんは、すぐ褒めてくれる。もう、好きだ。


「しかし、放送か……。多くの人が見ているのか?」


 アザレアさんにコメント欄を見せるのを忘れていた。


「はい、あのそれで……コメント共有が多分……」


 僕は放送のコメント共有を有効化する。これは画面に映ったフレンドにコメントを共有する機能で現在まだ開発の余地があるとされている。


 フレンドが放送していることを通知してくれるのは便利だ。でも、戦闘中にコメントが届くとびっくりくらいはする。ゲーム開発なんてどんな集中力が必要かわからない。ここまで手が回っていたら僕はびっくりだ。そもそもすごいゲームなんだから。


「これが、コメントか……。よし、一つこの場を借りてもいいだろうか?」


 多分メンティー募集だろう。やぶさかじゃない。初心者の人が助かるだろうし、恩もある。


「もちろん!」


 だから僕は、すぐに肯定した。


「私はアザレア、カイザーランクの冒険者だ! 現在、メンティーを募集している。だが、うっかりギルドに英雄の道のメンティーがいいと言ってしまったがゆえに、メンティーが紹介されず困っている。クロの友人で、助けが必要な冒険者は是非頼ってほしい……」


 この世界のNPCにとって一般名詞であっても、初心者にとってはそうではなかったりする。だから、僕が代わろう。


「えっと、冒険者ギルドにはメンターという制度があります。新人冒険者が上位冒険者の弟子になるような制度です。師匠である上位冒険者がメンター、弟子である新人冒険者がメンティーです。これがギルドの組合機能の一つです!」


 いろいろな組合機能があるけど、これが一番相互扶助能力を高めていると思うのだ。


卍最強ドリル卍:女師匠とかヤバ! こんな人たらしだったら、すこになるじゃん! でもなぁ、クロちゃん先生がいるしなぁ……

シュバルツカッツェ:この人になら抱かれてもいい……

とワイ、ライト:彼女にも選ぶ権利があると思います

Seven:いや実際、惚れるわw

ハニー・シルバームーン:この放送と掛け持ちで、アドバイスもらっちゃってもいいんですか!?

ฅにゃん皇帝ฅ:百合咲いたかにゃ?

†アリス†:にゃん皇帝は百合豚だから気をつけてね……


 きっとアリスさんは遅かったのである。しかしにゃん皇帝さん百合好きかぁ……。の割には僕にも結構甘い。


「もちろんだ。クロは私が認める冒険者だ! 彼の情報は絶対に役に立つだろう。私ですら、後々参考にする可能性がとても高い! だから、メンティーにはクロを紹介したいと考えていたのだ! それと、あまり褒めないでくれ。照れてしまうからな……」


 そう言って、アザレアさんは頬をポリポリと掻いた。

 瞬間、コメントは阿鼻叫喚に包まれる。


ダスクえっち:えっちだああああああああああああああああ!

卍最強ドリル卍:かっこいい……かわいい……推す……。

ฅにゃん皇帝ฅ:抱かれてもいいッ!

†アリス†:間に合ってないし……ブヒってるし……

ハニー・シルバームーン:しんどい……良すぎてしんどい……

とワイ、ライト:ワイトでも心臓動きます……

ヒュギエイア:パーティにお招きしたいくらいです。

メディナ:ヒューちゃんが代弁してくれたかな?

松ッソー:また会いにいくな! 俺ともフレンドしてくれよ!


 とにかく、アザレアさんは本当に人たらしだったのである。

 それはそうとしてにゃん皇帝さんとアリスさんが、コメントのタイムラグのせいでコミニュケーションがずれている気がする。ちょっと気の毒だ。そして、なんだか二人から百合の香りがする。


「そ、そうだ! きょ、今日は、私に何をいいに来たのだ?」


 アザレアさんはたまらず真っ赤な顔で俺を見て、話題を強引に転換した。

 確かにかわいい。僕より年上の、背も少し高い女性なのにかわいいのだ。

 そして、かわいいと言っても赤くなるばかりで怒らなそうなのだ。

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