第55話・エピプロローグ
「そうでした! アザレアさん、僕はツヴァイン・ヴィレッジに向かおうと思うのです」
これは新たなる旅立ち。シュタインフォイア川を渡り、新たな世界へと僕は行くのだ。どれほどの人がそこに到達しているだろうか。心は既に踊っている。
「そうか、少しの間寂しくなるな……」
旅とは、出会いと別れの連続である。嬉しいことが起こる反面、寂しさだってたくさん感じる。
「でもどうせ、また会えるのだと思ってますよ! 特にアザレアさんとは!」
思っていて、望んですらいる。でもきっといつか今生の別れが来るのだろう。サービス終了の日に。
「それに関しては深く同意だ! 会いたいしな、会いにいくかもしれん」
おそらく旅の途中で出会うだろう。
それはそうと、アザレアさんもまた会いたいのだと思ってくれる。それは非常に嬉しいことだ。
「途中で追い越されちゃうでしょうね」
アザレアさんと僕はレベルが違う。体の作りが違う。
「ははっ! 追い越すときにでも会いにいくさ! ……ん? この算術はなんだ?」
僕はすっかりコメントを無視してしまっていた。だが、今も放送中で有る。
腐海の魔女:アザ×クロ=てぇてぇ……
Seven:それな!
ヒュギエイア:いいえ! ヒュギ×クロが公式です!
メディナ:ヒューちゃんごめん。私は松×クロ派閥……
卍最強ドリル卍:ドリ×クロ原理主義
ฅにゃん皇帝ฅ:すべてのヒロインはこの皇帝のものである。クロちゃんも例外じゃなあああああい!
†アリス†:あぁ……にゃんこは言ってるだけだから。
コメントでは、カップリング戦争が起こっていたのである。
「なんで僕全部後ろなの! なんで僕がヒロインなの!?」
僕は男性だ。だからクロ×アザなどを主張したい。
いやそもそもだ、ヒュギ×クロはひどい。ヒュギエイアは、性格的にヒロイン適性が非常に高いと思うのだ。それを超えるヒロイン性を持っているわけがないのだ。
「あぁ、なるほど。このような家系図を望んでいるというものか。クロ、モテモテではないか!」
いや、モテるのは非常にありがたいのだ。でも、ことごとくである……。
「全部婿入りさせられてるの!」
そして、僕を更なる絶望が襲う。
松ッソー:クロの場合、嫁入りだろwwww
とワイ、ライト:ワイもそう思います。
ハニー・シルバームーン:でもなぁ、タキシード着せるのも捨てがたいなぁ。絶対可愛い……
「タキシード着てすら、可愛い扱いなの!?」
それは非常に困る。もう泣きそうだ。
「落ち込むな! 非常に良いことではないか! 何を着ても魅力的である。そこは揺るがないではないか!」
アザレアさんは僕に啓蒙をくれた。男だ女だに囚われて本質を見失った。
大切なのは魅力的かどうかだ。らしさと当人の性別にはなんの関係もないのだ。山本先生に言われたばかりである。
「そ、そうでした!」
しかもよく考えれば、そう評価されたのはアバターの話だった。言葉に反応して、全く持って何も見えていなかったのである。
状況から文脈を作成し、そして理解を得る。そのめんどくさい工程こそ、惑わされない心の材料なのかもしれない。
僕は今道具を求めている。この弱い心に纏う鎧を求めている。
「うむ! 非常に魅力的だ! 何よりも、そこにあるものがな!」
そう言って、アザレアさんは僕の胸の真ん中に指を当てた。
「心臓? アザレアさん、カニバリズム!?」
これはまったくもって冗談である。
「心のことだ!!!」
大声なのに面白おかしくて心地いい。これは、ツッコミだ。
ダスクえっち:びっくりしたァ……谷間(ない)が魅力的かと思った……
Seven:は? 聖人か? 彼女は!
卍最強ドリル卍:クロちゃんマジ魅力的! 天使!
松ッソー:うちの双剣だからな!
ヒュギエイア:外見だけじゃありませんよ! 語り尽くせるものではないんです。
メディナ:なんだかんだで私たちは彼が好きだ
涙が出てきそうだ。元パーティーメンバーにして未来のパーティーメンバーたちは僕に太鼓判を押してくれる。全肯定してくれる。
僕は今日も明日も、生きていていいのだ。たったこれだけのことでそれを感じられる。あぁ、僕の人生は素晴らしい。
「三人とも、愛してるよ……」
本当に心の底から。彼らに幸せあれ。
「おい、私が言い始めたのだぞ!」
アザレアさんは少し拗ねたように言う。確かに、アザレアさんが言語化を始めてくれたのだ。
「ふふっ、そうでしたね。本当に心からありがとう。あなたのことも大好きです!」
言葉にしてくれたのだ、だから僕も言葉にしよう。今は、言葉の時間なのだ。
卍最強ドリル卍:こうして、クロちゃんは世界を愛し、そして世界を変えるだろう。
Seven:とーとつにエピローグ!?
ダスクえっち:ふーん? 熱いじゃん!
松ッソー:友人たる我らは伝えるのみだ。ただ、いかなる時も君の友であると。
ハニー・シルバームーン:物語がおわるううううううう!
「あはは、終わりませんよ! 始まったばかりです! いざ、次の街へ!」
僕の人生は始まったばかりだ。失敗した程度で否定する人はもういないのだ。
さぁ、次へ。そしてその次へ……。
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