第56話・賭博主義経済
現実に戻る。そろそろ夕食だ。
リビングに降りると、母も父もいて、なんだかこれぞ家族といった感じである。
「悠希! ゲームをしていたんだろ? 父さんにそっちのことも話してくれ! どう面白いんだ?」
なんだろうかこの高揚感。自己肯定感。自分がここにあることを、祝福されているのだと心の底から感じる。
「
母はそんな風に言うけども、関係ないのだ。確かに尋問のように聞こえる。だが、目を見れば、声を聞けば、僕への興味が伝わって来るのだ。
愛情なんてものは興味である。確か、ずっと前に母に言われたことだ。
「あはは! 確かに! でも、聞かれて嬉しいから! 例えばさ、ドレイククライシスやったことある?」
ゲームの楽しさは、確かにゲーム自体にもある。でもそれだけじゃないのだ。むしろ、おまけですらあるかもしれない。
「父さんはないなぁ……」
相互理解と相互尊重、多分全世界の共通言語だ。だって、理解されて尊重されることが嬉しくないなんて考えられない。
「ええ!? 男子は全員やってたぞ! アタシも混ざって、データ見せ合って、小学校の定番だったぞ!?」
父も母もドレクラ世代と言っていいだろう。そんな世代の人だったはずだ。
「正直、楽しそうに話すもので羨ましく思ってたなぁ……。あぁ、そうか、悠希に同じ思いをさせてしまったのか……」
子供と大人、それぞれ別の社会がある。違う社会のことなんて、理解するのは大変だ。日本人が海外の文化を理解するのが難しいように。
「すまん、アタシは本当に言い過ぎてたみたいだ……」
母はそう言って、頭を抱えた。理解したつもりで理解しきれていないことだってたくさんあるのだ。
その人の生きた環境、人格形成に関わったこと。だって、僕だって自分がどうしてこんなこんな性格なのか理解しきれていない。
「いやいやいや! テルのおかげで目が覚めたんだよ! って、それより悠希の話だ!」
父は閑話休題、僕の話に強引に戻す。
「うん! お母さんが今言ったけど、結局さ人とつながるのが楽しいんだと思う」
そんなの最初は自分でもわからなかった。面白そうなゲームで最新の技術が使われていた。だから面白いのだろうと思っていた。
でも実際は、その中で人とつながるのが一番楽しい。だって、放送を初めて、ゲームの楽しさは飛躍的に上がった。
「それなら、父さんにもわかる! お互いに褒め合って、たたえ合ってって、楽しいな! ……楽しいって、それなんだな」
ただ話していただけ。なのに、僕たちは楽しさの本質にたどり着いていたのだ。
「アタシの持論。それができれば、例えなんであっても楽しい。くっそ辛い仕事でもな……」
だからかもしれない。母が来てから、楽しいことばかりに包まれた世界がこの家の中にある。これまで辛かったことはゆっくりと手のひらを返し、楽しいことへと変貌したのだ。
「あー、自己嫌悪だ……。父さん、ずっとその真逆をやっていた」
なんだそんなことか。僕は、褒めてもらえないから勉強が嫌いだったのか。
「知則もそんな場所で生きてきたんだ。仕方ない……。でも、人は変われる、いつからでもな!」
山本先生が言っていた。人生は勉強だって。きっと変わるきっかけは、知ることなんじゃないかと勝手に想像した。
「僕、今幸せ!」
何よりもそれが大事なのだ。
これまでの父が、完全に悪い父かというとそうではない。悪さ55%程度じゃないかなと思う。学校に行かせてくれたし、貧乏でもなかったし。
本当に完全な父親なんてきっといない。
「それは本当に良かった!」
母は僕の幸せを祝福してくれる。
「テル、すまない。俺は、なんでかな、本当に少しだけ怖いと感じたんだ……」
話は二転三転としていく。我が家の哲人の意見をさぁ聞こう。
「あはは! そりゃ、資本主義の毒だ! 資源の奪い合い、お客の奪い合い、金の奪い合い。奪われたとき相手は幸せになって、自分は不幸になる。だから、自分以外の幸せにはヒヤッとする。根源的に、父親と我が子はちょっと他人だ。だから、心のほんの片隅、普通気付かない程度に恐怖を感じる。が、途中で嫁の尻に敷かれまくった旦那ほど、洗脳されてその恐怖が完全消滅する。そのために、産後の母親は攻撃的になるのだ。……今考えた!」
そして、僕たちはずっこけた。
「「今かよ!!!!」」
父と僕の声は重なり、母にツッコミをぶちかます。
「途中までは割とでまかせじゃないぞ。根源的に……からだ!」
とはいえ、あれだけ立派に主張をしておいて、でまかせ部分がまぁまぁあるのだ。笑ってしまうではないか。
「しかし、資本主義は正義と思ってたけどな……」
努力で成り上がれることは素晴らしいことだと思ったのだ。
「資本主義ってカードを交換できる回数が多いポーカーに似てるって私は思ってる。確かに努力や戦略は重要だが、運の要素が除外できない。完全に運かといえば、そうでもないと言える。ポーカーなのは、掛金が自由に変更可能だからだ。あ、それと、知則は麻雀やってたよな?」
麻雀、なんとなく大人のゲームといった印象だ。
「付き合いでやらされたなぁ……」
結構いろんな会社でやらされるらしい。
「あれでな、同じ卓で、めっちゃ上がりまくる奴がいると楽しくないだろ?」
母はそれを通して何を伝えようとしているのだろうか……。
「確かに!」
父にはもう答えが見えているようだ。
「それが、他人の幸福が妬ましいと思うのと一緒だ。こっちも資本主義に似てる」
身が固まるような衝撃が訪れた。資本主義は要するに、お互いのお金という点数を奪い合うゲームだったのだ。しかも、賭け額は自由。
「……っても、それ以上にみんなにチャンスがある社会制度はわからん! 欧米では社会主義が主流になりつつあるらしいけどね……。ま、アタシにはわからんから現状維持派かなぁ……。資本主義否定できるわけじゃないしなぁ……」
それが結局母の答えらしい。この母でもわからないことがあるのだ。
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