第30話・山本先生

 スティレットが完成すれば、少しビルドの技量部分を強化できる。

 また、最初の大鎌には届かないけどでも大鎌向けのビルドに進めるのだ。


 ルンルン気分にはなったものの、昼食を食べにログアウトして気づいた。さほど、リハーサルできていない。ほんの少しだけがっくりとしながら、昼食を食べていた。

 それが終わった頃である、電話が鳴って、今から件の先生が来るという連絡が入った。さぁ、対面だ。


『こんにちは! 連絡させてもらった山本です! ちょっと早いですけど、大丈夫ですか?』


 山本先生というらしい。インターフォン越しに聞こえる声はとても優しそうで、かなり安心ができる。

 早いとは言っても15分程度、なんのことはない。母曰く、社会人としてとても常識的であるらしい。


 母と二人で玄関まで山本先生を迎えに行き、扉を開けて応対した。


「本日はお世話になります。私、松田照喜まつだてるきと申します!」


 びっくりしてしまった。母がものすごく丁寧な言葉遣いをしている、


「あ、これはご丁寧に。山本です。よければ名刺どうぞ!」


 のほほんとした雰囲気なのではあるが、内容はしっかりとしていた。

 山本先生は男性の先生なのだが、とても穏やかに響く低い声をしている。髪は少し白髪まじり、だけどなんだかそれすらもオシャレな印象に見える。

 スーツはカチッと着こなしていて、とても紳士なイメージだ。


「そちらが悠希ゆうきくんですか?」


 山本先生は俺に目を移して母に訊ねた。


「はい!」


 母は山本先生に返事したあと、俺にしっかりと目を合わせて訊ねてくれた。


「イケる?」


 あ、でも普段の母さんだ。

 俺はそれに安心して、うなづくと一歩進み出て、山本先生に軽く頭を下げた。


松田悠希まつだゆうきです!」


 頭を上げると、山本先生の目線は俺と同じ程度になっていた。


「とっても礼儀正しいですね! 悠希ゆうきくん、私はあなたが学校に復帰するお手伝いがしたい。だから、お話を聞かせてくれますか?」


 腰が低く穏やかで、なんだか親しみすら感じてしまう。

 これだけでこれまでの先生とは違うのだと思った。中高年と見える先生なのに、目線も合わせてくれれば、敬意も払ってくれた。

 一瞬NPCという言葉が頭をよぎり、少しゲーム脳になりすぎだと自分を律する。


「是非お願いします!」


 ただ、俺が緊張を解くには十分な材料をもらっていた。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 リビングに移り、向かい合ってソファーに座った。


悠希ゆうきくん、大変だと思いますが、最初はテストから始めてみませんか? まず、君がどこまで出来るかわかればすぐに復帰のロードマップを作れると思います!」


 やっぱりAIだこの人。なんというか言葉選びがそれっぽい。

 でも、あるいはこちらの緊張を解くためにそんな言葉選びをしている可能性もある。最近のゲームではトークボットが使われる傾向があるのだ。そんな風に山本先生を見ていると、それが伝わったのだろうか。ジョークを言ったのだ。


「私はプルチックの感情の輪に説明される八つの基礎対人感情を持ち、自己複製機能を保有します。これにより、私は科学的に生物であると定義されます」


 全力でAIっぽく自分が人間であると主張してきたのである。


「アハハ! 余計AIっぽいですって!」


 それは、噂に聞くウニーカ・レーテα1時代のトークボットのような言葉選びだったのだ。


「ふふふ、意識しましたよ」


 山田先生はしてやったり顔をこちらに向けてきた。


「ごめんなさいテストですよね! やりましょう!」


 でも、それがこっちの緊張を解きほぐしてくれたのだ。俺だからこそな部分はあるだろう。ゲーマーだから。母から情報でも漏れていたのだろうか。


「おっ! 前向きですね! では、用意してきましたので、早速取り掛かりましょう」


 俺が嫌がったらどうするつもりだったのだろうか……。

 しかしこうやって、話が早いとやる気が萎える暇がない。


「ゆーき、お茶を入れてくる。山本先生は緑茶、コーヒー、紅茶、どれが好きですか?」


 そんな俺を母はそっと応援してくれる。

 俺が先生と話していることに驚いた様子は少しあったが。


悠希ゆうきくんは普段何を?」

「緑茶です」


 健康にいいのだとか、母は健康ヲタな部分があり、それに従うと体の調子がよくなる。体の健康は割りと、心が前向きになる手助けをしてくれるのだ。


「では私も。って、普段からなんですけどね」


 近年では海外でスーパーフード扱いされているが、もうちょっと素直に飲んで欲しい。苦いのだろうか……。

 俺と先生は、お茶を飲みながらいくつかテストをした。


「悠希くん、これからたまに君になんで学校にこれなくなってしまったのかとか、私は聞くと思います。でも、答えたい時だけ答えてくださいね!」


 最後に、そんなことを言ってくれた。

 それが本当にありがたい。でも、本当に聞かれた時に断れるかは不安だ。

 嫌われてしまったらどうしよう。答えなければ、自分の悪い噂が広がる可能性が上がるかも知れない。

 悪い結末はいくらでも想像できてしまうのだ。

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