第47話・鍛えた絆

「うっわぁ……ベータのトップパーティーと私が神になってるのかぁ……。実験の邪魔にならないといいけど……」


 少しいろいろなことを話した。にゃん皇帝さんは現在新レシピ探しているらしい。なにせ、βでやってた錬金術とすら言える金策レシピは既にほとんどがNPC達の手に渡っているのだ。にゃん皇帝さん自身、それに不満を持ってはいない。なぜなら、お金が彼女にとって副産物。廃材アートが主目的なのだとか。


「ついついはしゃいじまったが、神様が頼むんだ! 態度も変えないし! 誰にも言わねぇ! それに、人と神だとしても、職人仲間との友情を砕くなんて許されねぇだろうよ!」


 ヴォルフガングさんは気持ちよく言い放った。本当に一点曇りもないほどに、清々しい性格の持ち主だ。

 というか、二人はものづくりジャンキー同士の仲良し同盟のようだ。


「ガンちゃん愛してる!」


 にゃん皇帝さんはその言葉に全身で喜びを表現して、躍動に任せてヴォルフガングさんに抱きついた。

 多分なのだが、ヴォルフガングさんは現時点では鍛冶分野の最強NPCではないのだろう。だが、間違いなくそこにたどり着く。にゃん皇帝さんとのこの関係がそう言っている。


「あの……重ね重ねすみませんでした」


 だとしたら、本当になんということをしてしまったのか。この関係を壊しかねないチクりだ。自己保身を優先して僕は良くないことをした。


「もういいって! そりゃヒヤっとしたけどね……。そのおかげでガンちゃんとの絆を再確認できた」


 しかし、妙だなぁ。僕の周りにはNPCをリアルの人間のように扱う人ばかりが集まっている。類友だろうか……。


「い、いいんだけどな……。にゃんこ、そろそろ俺ァヤベェ……」


 気づけばヴォルフガングさんの顔は真っ赤だった。

 この見た目なのだが、純情なようだ。ただ僕は知っている。ドワーフの種族進化がどのようなものか。豊かな髭とずんぐりむっくりとするほどの体系をもたらす。それに、筋力にも全種族中最大のボーナスを発生させる。それでも、年齢は変わらない。


「あれ? ガンちゃんって若い!?」


 そう言いながら、にゃん皇帝さんはヴォルフガングさんから手を離した。


「わかってるかと思ったぜ……」


 ヴォルフガングさんはまるで呟くように……。

 髭というものは綺麗に手入れをされた場合権威的で、その人を老成したように演出する。だからきっと、老人のように見えるのだ。


「ちなみにおいくつなんですか?」


 ふと気になって僕は訪ねてみた。


「18だ!」


 流石にそれは驚きだ。この世界の人、NPCが、種族進化を経験するのは平均的に20歳の頃。だが、天才というのはどこにでもいることで、目的に向かう一切の感情に楽しさがついてまわる。だからこそ、努力を無自覚に行えて、さらにやめることもできない。ヴォルフガングさんはきっと、そういう人だ。


「わお、想像の倍若い!」


 これはNPC特権なのだが、NPCは鍛錬により魂を大きくすることができる。つまり、レベルが上がるのだ。ただ、その効率はとても悪く、5年間全てを肉体の鍛錬に当てたとしてレベル10にやっと到達するかどうか。さらにレベル10を超えると効率は急激に落ちる。20年で1レベルあげることができるかどうかという次元まで。


 レベル10の指数関数はまだまだステータスが不足に悩んでいる頃だ。

 だから、βの時はひたすら筋トレするAIが組まれていたりもした。


「どうやってその効率でレベルあげたんですか!?」


 僕はちょっとそれにびっくりした。


「知ってるか? 鍛冶のための必要なスキルってのは、ゲレム特攻だぜ!」


 ヴォルフガングさんは目を光らせていった。やっぱりこの地方の人だ。ゲレムと発音することからもよくわかる。


「あ、なるほど! メタルマスターですね! って、え!?」


 メタルマスターは金属系ゲレム、いやゴーレムの特攻だ。さらに高い筋力も持つことで、ゴーレムを砕くことすらできる。だが、メタルマスターはレベル11以上でないと取得できないのである。これをウニーカスキルと僕が勝手に呼んでいる。ユニークスキルに似た条件のくせに汎用スキルだから。


「レベル15だぜ!」


 ヴォルフガングさんこんなところにいちゃいけないNPCだったのである。


「ガンちゃんすっごい!」


 今ならほとんどのプレイヤーより高レベルな気がする。


「本当ですよ! そんな高レベルなんて!」


 だから、にゃん皇帝さんの言葉に僕は同意せざるを得ないほどだった。


「ところでクロはどうだ? レベルはどこまで上げた?」


 話題はふと変わって、ヴォルフガングさんに尋ねられた。そういえば、くじけないか心配されてた気がする。


「6ですよ!」


 知識があって、レベル4に到達できれば、誰でも6までは行ける。


「大したもんだ! 本番の始まりだな!」


 ただ、ここからは本当に本番。真正面からぶつかり合いが必要だ。知識と技量でそれをひっくり返す必要がある


「はい、正直次の相手に迷ってます……」

「アザレアはダメか?」


 ヴォルフガングさんは言うが、それは無理である。見たところ彼女のビルドはブルーザー。タンクとアタッカーの中間的なビルドで、防御力もかなりある。武装を完全解除してもらっても……。


「ダメージが与えられません……」


 だから決闘してもらっても、魂片をもらえないのである。

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