第46話・破壊と再生

 レベルが上がるまでファーミングはしっかり続けた。だけど困ったなぁ、次の放送ではまたメスガキを求められたりするだろう。

 とはいえ嫌というほどではない。羞恥心に負けない限り、なかなかに気持ちがいいのだから。


 ところで、問題は次だ。今僕はレベル6、レベル12のギミックエネミーが思いつかないのだ。

 いないことはないが、ステップ・ゴーストがどうしても必要になる。スキルは50ポイント。今の貧弱な俺のポイント収支ではどうにもならないし、ポイントを持ち越そうとしても入手不可能だ。そもそも持ち越すために貯めようとすれば、筋力より敏捷が高い今のビルドはできなかっただろう。あちらを立てればこちらが立たずで嫌になってしまう。


 シュトロン・プッペのレベルアップ後個体が狩れれば、あいつらはかなり広範囲の爆発をするのだ。

 悲嘆しててもしょうがないと頬を叩き、鍛冶屋に入っていく。ドワーフの店主は満面の笑みで迎えてくれた。


「よぉ! クロだったよな! 注文の品はできてるぜ!」


 この人は豪快で、関わっていること自体が心地いい。


「ありがとうございます! そうだ、銘の合成もできますか?」


 この世界の武器は成長していく。だが、耐久限界値があり、それを越えればどうしても壊れる。いくら手入れをしていたとしてもだ。


「できねぇわけねぇだろうがよ! まっかせやがれ!」


 そう言って店主は大声で笑った。本当に声量が凄い。


「流石です! ええっと……」


 そういえば名前が気になる。この人はどん名前で、何をされると喜ぶのだろうか。聞き忘れたのは、失礼だったかもしれない。


「ヴォルフガング・シュミート。親しいやつにはガンって呼ばせてるぜ!」


 いや、名前かっこいいな……。

 ただこの人はこの文化圏で生まれ育っているみたいだ。


「お、そうだ! ヤマト名はマヒトツってな!」


 わーお、日本神話みたいな名前が出てきた……。というか、そんな名前がついているのだ、鍛冶NPCの隠しキャラって可能性が……。


「ガンちゃーん! ちょっと話聞いてくれるー?」


 ちょうどそんな時である、鍛冶屋の店内に女性が入ってきた。

 そんなにポンポン隠しキャラ出てくるわけないよな。


「にゃんこじゃねぇか! さっさと話せ!」


 いや、そんなことがあってはたまらないのだ。今さっきまで恥ずかしいところを見せた相手に、こんなにもあっさりと出会うなんて……。


「いやね、刻印も成長してるんだけど、もしかしたら刀身の金属自信にも変化がないかなってね。そこで、使い潰された金属を集めてきた!」


 頼むからバレないで欲しい。願わくば職人談義に華を咲かせ続けて欲しい。

 多分だけど、にゃん皇帝さんは口調以外は職人気質であるはずだ。頼むから、そうであってくれ……。


「まぁ、変化は起きちゃいる。だが脆くなって帰ってきてるんだ。刻印に力を吸われちまったみたいに……」


 刻印は銘が刻まれた部分のこと。その部分は武器が破壊された時に、一つの金属片として残るのだ。それを鍛接することで、銘、つまり武器の名前と僅かに力が継承される。


「計算上おかしいんだよね……鋳造で形にしてみたんだけど、強度計算に誤差が生まれてるの……」


 にゃん皇帝さんは、どうやら僕の同類みたいだ。検証大好きで、試算と実験中毒。そりゃ、ソロで神話になるはずだ……。


「詳しく話せ……」


 ヴォルフガングさんの、体温すら上がった気がした。正体不明の圧力が、まるで解き放たれるように店を満たしたのだ。


「ガンちゃん落ち着いて。私も悪いんだけどさ、お客さん待たせてるよ!」


 あ、ダメだわこれ。絶対このまま気付かれる流れだ……。


「おうすまねぇ、ほら! 注文の物だ! 抜いてみろ!」


 ここだ、逃げられる。


「いえ、新しくおこしになられたお客様との商談がございます模様。私、これにて……」


 声も変えた、口調も変えた。あとはヴォルフガングさん次第……。


「おう? 人見知りか?」


 あ、ダメですわこれ。絶対これで気付かれましたわ。


「遠慮しなくていいですよ! ほら、確認はしっつか……り……」


 あ……あかん。何もかも終わりだ。この世の終わりだ……。


「クロちゃん!!!!」


 にゃん皇帝さんはおさげの女性キャラクターだった。身長は僕のアバターとだいたい同じ程度。そして、少し光沢を帯びた茶色。ハーフ・ピクシーのノーム形質を選択した色だ。これで身長デバフ-5%を受けたあとだ……。


「え、えと……アハハ……」


 もう笑うしかない。笑ってごまかせることを祈るしかない。だが、現実は非情だ。


「ガンちゃん! この子大得意様に育つよ! 多分戦闘技術だけならこの世界最高!」


 逃げ出したい、頼むからこれ以上僕の情報を出さないでくれ……。


「知り合いか? まぁ、知ってるぜ! なにせ、アルカディア神話の一柱だからな」


 あ、アザレアさんの民族の神話はアルカディア神話っていうのか……。

 それはそれとして、見えたのだ。活路が……。


「この人は余り物錬金術師ですよ」


 そう言って、苦笑いをしたのである。さぁ飛びつけ。職人として放っておけない神格のはずだ。


「おぉぉぉぉおおおお! アルカディアの再生の神よ! 俺の人生どうなってやがる!? 幸運すぎるぞおおおお!」


 よし、この隙に……。

 そろりそろりと足を進めたが、ヴォルフガングさんにすぐに捕まってしまった。


「ありがとう! 破壊の神! 教えてくれてありがとう!」


 ヴォルフガングさんは感動暴走モードに突入していた。


「なんてことをしてくれたのかな?」


 しかも肩をにゃん皇帝さんに掴まれて、逃げることはどうやら無理そうだ。

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