第45話・ウルト

 音と振動によってシュトロン・プッペは集まってくる。特に音に対して敏感で、おそらく軽い藁の体で振動をキャッチしている設定なのだろう。

 これでもかという速度で逃げてくる。

 僕が居るのは手を伸ばせば掴める位置にこの筋力で乗っても折れない枝がある場所だ。この世界の体重は、筋力で決まるのだ。

 筋力3の体重は極めて軽い。そして敏捷は5。


「藁人形の大群に見えるよね? でもこれで、2体だと思うよぉ! でこの大群で、このレベル帯でダントツ最強の火力。逃げられないと思うよねぇ?」


 やがて、シュトロン・プッペは僕が射程圏に入ったと思ったのだろう。藁の体に火をつけた。シュトロン・プッペはプレイヤーの敏捷14程度の移動速度を持っていて、スピードも馬鹿にできるものではない。それに飛びかかってくるのだ。


卍最強ドリル卍:どどどうするの!? 一体でもカオスなのに!

ダメじゃん寿司ズ:ダメじゃん! 一貫の終わりじゃん!

ハニー・シルバームーン:見えてる逃げ道に逃げたらダメだからね!


 本体となる藁人形の中に霊体が潜んでいる。基本的に4~5体の藁人形の群体で、本体以外は陽動。不自然に空いた、逃げ道には本体がいるのだ。


「というわけで、本体方向に少し逃げまーす! これが一番いい対処法なんだよ! しらないのぉ?」


 知力は低く人間の言語を学んで逆手にとってやろうとかはありがたいことに考えない。

 逃げ道の先がふと明るくなった。

 よし、本体着火成功。

 そのまま通り際に枝に捕まって、その枝の上に立つ。すると間抜けなことに燃え尽きてくれるのだ。

 本体着火が戦闘行為判定になり、見ていると勝手に燃え尽きてくれる。


「ね?」


Seven:物理法則仕事しろ! 絶対折れるだろそれ!

ฅにゃん皇帝ฅ:戦わずして勝つ……達人クロちゃん!

闇を駆ける黄金の閃き:いや、その太さの枝に乗れるわけが……あ! 低筋力!


 今乗っている枝の太さは直径が目分量で10センチ程度だ。この太さの枝だとそこらじゅうで生えている。多分だが、もうちょっと細いと折れると思う。


「そ! 今、僕の筋力は3。体重的には24キロくらいじゃないかなぁ。計算に誤差がなければだけど! で、敏捷が5だから助走分逃げられれば逆上がりの要領で木に登れるんだよぉ! 本能的に乗れるわけ無いって思っちゃうよねぇ? ざこ視聴者さん?」


 そう、割と思ってしまうのだ。あんな細い枝に登れるわけがないって。現実が邪魔をして、これに気付かないのはぶっちゃけ仕方ないと思う。

 慣性によるダメージ変化の演算になぜか筋力が影響していることを発見しなかったら僕もぶっちゃけ全くわからなかっただろう。製作者は意地悪だと思う


シュバルツカッツェ:つまりどういうことだってばよ!?

闇を駆ける黄金の閃き:クロちゃんは尻じゃなくて体が軽い

とワイ、ライト:ワイも驚いています。

ダスクえっち:おい燃え尽きる前に写真を! ローアングルを!


「ローアングルって? それよりさぁ、ブザマだよね! 全部燃やしちゃうから結局負けちゃうの……ホントざこ! ほら、みんなで言ってあげようね! ざぁこ! ざぁこ!」


 万に一つも気を抜くな。僕はメスガキだ。煽って煽って煽り散らかすのだ。

 ちょっとでも羞恥心を感じたら負けだ。多分メスガキモードがクールダウンに入ってしまう。だから全力で、エンターテインメントのメスガキを……。


卍最強ドリル卍:どっちかというとメスガキっていうより言葉責め?

ダメじゃん寿司ズ:ダメじゃん! なんか目覚めそうじゃん!

ฅにゃん皇帝ฅ:だんだん女王様に見えてきた……

Seven:やめろ! 変な性癖生まれたらどうする!!


 あっ、ダメですわこれ。

 顔が急激に熱くなってしまった。みんなの求めるメスガキ像を供給できなくなったことによって、クールダウンに入ってしまった。パッシブによりこれから僕の精神は、羞恥心モードに移行するみたいだ。


「し、仕方ないんです! メスガキ初心者ですよ僕! 頑張ってたんですから、大目に見てくださいよ!!」


 咆哮する。本当にメスガキの模倣なんて今日が初めてだったのだ。


ダメじゃん寿司ズ:ダメじゃん! 指摘するから戻っちゃったじゃん!

ダスクえっち:割と助かってたのになぁ……

闇を駆ける黄金の閃き:もうちょっとでプラチナになれるところをよぉ!

シュバルツカッツェ:下ネタひっでぇ……


 その下ネタの内容はちょっとわからない。


「と、とりあえず、これが木登り式シュトロン・プッペファーミングです。筋力と相談して、しっかり場所をセッティングすれば誰でもできますよ! 敏捷がある方なら、ダッシュ式もおすすめです! この調子でが、ガンガン行きますよ!」


 ただ、今日はレベルアップまで放送と決めている。それまでは頑張るのだ。

 そしてこの日、メスガキは僕のULT最強スキル認定をされた。使用後デバフまでかかるスキルなんて、レベルダウンさせてでも今すぐ捨てたい……。

 こうして僕の暗黒の時代は始まったのである。そう、黒歴史的な意味で。

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