第25話・さらば棍棒
「では、ドリルさん。打ち合わせ通りに」
そこまで言うと、俺はさっとその場を離れてファング・イーヴァと別角度から対峙できるようにする。
「うん……」
彼女の小声の返事はかろうじて聞き届けていて、お互い作戦を共有できているのが確認できた。
俺の役割は炭化膜を剥がして、アシッドⅡの浸透を助けること。たったそれだけだ。
「アイアン・ニードル! アシッドⅡ!」
ファング・イーヴァの体に突き刺さる鉄の針。そして浴びせられる凶悪化したような硝酸。表皮から順にタンパク質がニトロ化のような反応を起こして、可燃物に変容する。
「ファイア!」
実はこのビルドは戦術の幅が非常に広いのだ。木にアシッドⅡをかけて即興の爆発物を作ったりなどもできる。
ニトロ化タンパク質はファイアの熱に引火し、ファング・イーヴァのに熱傷を与える。
「このままだと、肉が炭化するので前衛は炭化膜を破壊してください!」
口で解説しながら、俺は棍棒を片手に飛び出した。この武器はそろそろ使い潰す予定だ。斬撃系に変更したい。そちらのほうが、バックアタックや不意打ちによるダメージボーナスが大きくなる。
「アシッドⅡ! ファイア!」
ドリルさんが追加の酸と熱を供給してくれる。
熱傷と酸の激烈なダメージにのたうち回るファング・イーヴァは、大したダメージを出さない俺の打撃などにかまけている暇はない。プログラムによって作られた本能は“火を消せ、体を洗い流せ”と大音量でアラートを鳴らし続ける。序盤の敵には効き過ぎるほどだ。
「近接はどんどん炭化膜をくだいてくださいね! 酸が飛び散った場合、魔法使いに洗い流してもらいます。自分は洗い流してくれる人がいて、敵はいない。まさに愉悦ですね! あ、このビルドの魔術師さんは適宜アシッドⅡを追加してください。反応性がめちゃくちゃ高い上に熱しているので、アシッドⅡの効果時間は短いです!」
その代わりに短時間とんでもないダメージが出る。
解説をしているうちにファング・イーヴァは死亡した。
「ウォーター・ストライク!」
それに気付いて、ドリルさんは死体を洗ってくれる。洗ってくれないと、あっという間に消し炭だ。
「流水であることが重要です。アシッドⅡは非常に危険なので、必ず洗ってから解体してください。でないと、ギルドから重い罰金が科されます」
このビルドの難点である。ドリルさんにはビルドを説明するときに、このことにもしっかりと触れておいた。
ギルド職員に解体を頼む場合、職員もプロである。倒し方は、死体から類推される。酸が洗われていない場合でも事故は起こらないが、それでも安全配慮不足として罰金が取られる。
「ちなみにいくらなん?」
ドリルさんに聞かれたが、正式版の情報は全て知っているわけではない。
「βのときは1
アルケはこの世界の通貨だ。錬金術系スキルを全てマスターし、国家が秘匿するレシピを使用して、貴金属を合金化して作られる。ゲームの世界のくせに凝っている。
日本人はこのアルケを1アルケあたり10円くらいという感覚を覚えるのだ。
「200匹分!?」
だいたい、ファング・イーヴァはその辺が相場だ。ただこの倒し方だと、少し買取値が下がる。と言ってもその分、討伐数が増やせるので収支的にはトントン。経験値も考えるとプラスだ。
「なので絶対洗いましょう! このビルドを俺はファーマメイジと呼んでます!」
今後このビルドの話をするときに端的に話せるように、名詞でくくっておいた。
闇を駆ける黄金の閃き:えぐいwwwww
腐海の魔女:毒魔術、当たりスキルだった!
Seven:
ハニー・シルバームーン:基礎スキルの四大元素魔法と汎用スキルの毒魔術でできるのかぁ……お手軽!
「あ、アルケミストいいですよ! ドリルさんが次に火力を一気に向上させるのに取得をオススメしてるのがアルケミストです! マテリアル・チェンジが非常に有効です!」
だからSevenさんは落ち込むことはない。アルケミストを主体にすると秒間あたりのダメージは減るが、MPが節約できる。
トレードオフで、バランスがかなりいいゲームなのだ。火力が出ないスキルには、そのスキルの良さがあって、汎用スキルも全て有能だ。地雷スキルは存在しない。
あとはちゃんと、自分でコンボを考えるのが重要である。
「言われたねぇ……。ニトロ化した爆発物をアイアン・ニードルととっかえるんだっけ?」
つまり、敵を内側から焼く戦法だ。外皮に亀裂を生じさせ、外皮の防御を無視したダメージを叩き込むことができる。防御力の高いエネミーに対して非常に有効で、金策にもおいしいスキル構成である。
「はい!」
ฅにゃん皇帝ฅ:あ、それ私が考えてたやつの上位互換だ!
にゃんこさんは生産に有利な金属系強化を目指す可能性がある。戦う生産職にもってこいのスキルもあるのだ。
「メタルマスターがオススメですよ! 金属全種類使えるので、レッツゴーテルミットです!」
そういうビルドもいいのだ。武器加工素材はコツさえつかめば、メタルマスターを利用するメイジが一番うまく採取できる。
テルミット反応、金属が激しく燃焼する現象だ。大概の物質を燃焼させることができる。
多分、理科が好きな学生が知識無双ごっこをできるようにするための要素だろう。
ฅにゃん皇帝ฅ:いいこと聞いた!
でも、視聴者さんからの投げられる質問も重要だなと思った。おかげで、伝え忘れがどんどん減っていく。
その後も、視聴者たちからの質問に答えながら森を散策して、ファング・イーヴァ狩りを楽しんだのである。
代わりに俺は、チュートリアルでもらった棍棒をおしゃかにしてしまった。
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