第39話・ファンタジー

 日はまた上り、朝食を食べて、ストレッチをして午前のゲーム。

 だが、今日の午後は多分山本先生が勉強を教えに来てくれる。勉強に関しては、ちょっとだけ好きに傾いている。そして俺は山本先生のことも好きだ。敬愛というには関係は浅く敬情とでも言うべきだろうか……。そんな感情を抱いている。


 ゲームの世界では、次に討伐を目指すべきはLv8の敵。基本的にレベル二倍の法則に従う。

 Lv8帯から本格的に地球の生態系にありえない生物が登場するのである。

 アイン・ホルン、角の生えたうさぎなどは、まだ地球の生態系に生まれる可能性はあった気がする。


 早くスキルも欲しい。だがスキルは第一スキル以外で基礎スキルは50ポイント、ユニークにもなると60ポイントと必要ポイントが高いのだ。

 基礎で少なくとも、ステップ・ゴーストは必要だ。だが、とにかくレベルを上げなくては話は始まらない。


 放送を起動して、狩場へ向かう。そろそろ、アイン・ブルクから次の街エリアへの拠点変更も視野に入れなくては。


「アザレアさんの固定エンカウントイベントがなくなっちゃうなぁ……」


 平日の午前、誰も放送を見ていないと思い、寂しさをポツリを呟いた。


†アリス†:さっきできるって知ったんだけど、NPCもフレンド登録できるよ? どう?


 アリスさんは、ちょっと変わった気がする。なんというか、少しだけ俺自身に目を向けてくれるようになった。


「のわ!? い、いたんですか!? てか、NPCもフレンド登録できるんですね……。アザレアさんと、登録しておこうかなぁ……」


 俺は単純に、あのアザレアさんに入っているAIが好きなのだ。彼女の持っている擬似感情AIが、とても優しくて……。


 あわよくば、これからも関わって行きたくて。それに、可能ならテロス・タクシドでも彼女に会いたい。


 可能性だってある。ビルドサポートAIがバカにできないのだ。戦闘AIもバカにできないに決まっている。


†アリス†:私も、アザレアさんとしたよ! NPCフレンド、オススメランキングNO1かも!


 それは、とっても納得がいく。この世界のAIは神話を聞く限りみんな善良だ。だからオススメできないNPCの方が少ないだろう。でも、アイン・ブルクの最高レベルNPCが多分アザレアさんなのだと思う。


「激しく同意です! 後で、フレンド登録しに行きましょう! ところで、アリスさん、今度一緒に狩りしませんか? レベリングです!」


 俺は別にアリスさんを嫌ったわけじゃない。怖くて一度逃げてしまっただけだ。

 その時のアリスさんが嫌いだっただけ。でも、お互いにお互いを見つめて関われるならきっと好きになれる。


†アリス†:いいの!? 是非!


 きっと、完全に問題のない人格など人間では存在しないのだろう。


「もちろん! ……と、エリアに到着しました! 今日のお相手は、カルシュタイン・ゲレムですね! 平たく言ってしまうと、黄色いゴーレムです! ダガーなどの小型武器や刺剣、それから鈍器が特攻になるのが特徴です」


 シュタイン、多分ドイツ語風なのだと思う。

 だから多分、カルシウム系の鉱物のゴーレムなのだろう。わりと綺麗だし、もっと高くていいと思うのだが、このゴーレム一体で1000アルケ程度の買取価格だ。

 身入りが少ないことであまり狩られないから、すぐに会える。


†アリス†:カルサイトかな?


 アリスさんは意外にも詳しくて、なんと具体的な鉱物を知っていた。


「あ、多分それです! 物知りですね! 倒し方は簡単、構成されてる石の隙間に武器を滑り込ませてください。鈍器はもっと倒すのが簡単ですが、その代わりに買取価格がすごく安くなってしまうので注意が必要です!」


 すぐに砕けてしまうのだ。


†アリス†:はい先生! カルシュタイン・ゲレムを狩る場合、なにか他に注意点はありますか?


 そんなことを話していると、ちょうどその注意しなくてはいけない場面に遭遇した。


「あぁ……い、いい質問です。こ、これが、注意しなくてはいけないやつです。これを見たら、できるだけ粉は集めてください。でも粉の多い方向に進む時は、絶対に戦闘能力と相談してください」


 目の前は、黒い粉のようなものが散乱している。これは主に鉄やマンガンなのだ。

 ゲレムやゴーレムと言われる魔法生物がつくる、鉱物生態系。黄色いカルシュタイン・ゲレム同士の相互捕食によって透明なカルシュタイン・ゲレムが発生するのが第一段階。それが進むと、金属ゴーレムが発生する。金属ゴーレムはカルシュタイン・ゲレムとは比較にならないほど強いのだ。


†アリス†:純化してるってこと? 透明なゲレムがいるの?


「はい、そうです。そこまでなら対処可能ですが、万が一ステンレス化していた場合、俺は絶対勝てません」


 透明なカルシュタイン・ゲレムはLv10だが、同じ脆弱性を持つ。正直、俺のステータスなんていうものはこのレベルでは誤差のようなもので、脆弱性をついて倒すしかない。ただし魂片はレベル差が大きすぎて減衰する。

 非マナ系であり、非金属系のゴーレムだから存在する脆弱性。関節部の魔法結合の弱さである。

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