第41話・変態と天才は紙一重

 結局クリアカルシュタイン・ゲレムには出会えなかった。非常に遺憾である。

 出会えたらラッキーというレベルだったけど、突然変異なのだそうそう出会えたらたまらない。

 ギルドに帰ると、俺の固定エンカウントイベントが発動する。


「やぁクロ! 午前の冒険帰りか?」


 アザレアさんだ。

 彼女にはどうせ真っ先に伝わるだろう。だからいっそのこと、直接言ってしまうことにした。


「はい! カルシュタイン・ゲレムを狩ってたんですけど、ちょっと変異傾向がありそうで……」


 だから、俺の懸念をそのまま伝えた。


「流石だな……」


 今の子の関係に落ち着かせるのに俺はちょっとした嘘をついた。神話の登場人物であると、証拠なく名乗ればおかしな人に思われるだろうと。だからどうか、これまでどおりに接して欲しい。神の小さな欲望だと、そんなうそだ。


「多分鉄だと思われる粉が落ちていましたから。クリアカルシュタイン・ゲレムですら、一体か二体いる程度と予測してます」


 感覚的な推論であり、これには特に根拠があるわけでもない。


「うむ、理解した。私と一緒に受付に行くとしよう……」


 話はその方がずっと早いだろう。アザレアさんはカイザーランクで、良くも悪くも権威だ。

 すべての人の話を聞いていては時間も体力も不足する。よって権威は悪になり得るが、役に立つのだ。……と、思う。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 緊急連絡窓口、ここには呼び鈴が設置され、事務作業をしている人が優先して対応してくれる。


「はい……どうされましたか? アザレア様」


 この窓口は手の空いている人が来るのだ。受付専門ではない、研究者気質の人が来たりもする。

 だから、今回の相手は瓶底眼鏡の男性NPCだった。


「カルシュタイン・ゲレムの変異傾向を彼が提唱していた。理由を聞いた限り、私も同じ判断をしただろう」


 アザレアさんは俺の言葉に自分の権威を貸してくれる。だが、今回話を聞いてもらえた最も大きな要因は別だった。


「やはり! あぁ、やはり! 君、名前は!?」


 その男性はカウンターから身を乗り出して、俺に体をぐいっと寄せてきた。


「く……クロです……」


 ただ、圧がすごくて俺はちょっとひるんでしまう。それを見て、その男性はカウンターの中に戻ってくれた。


「あぁ私としたことが。申し訳ないクロくん。私の危惧が的中して、少し舞い上がってしまったのだ。ヒヒザクラ様に咎められてしまったよ……」


 この世界の人たちは、本当に常に神と共にあるのだ。それを目の前で初めて見た。


「いえ、大丈夫です」


 この距離なら俺も落ち着いて話すことができる。カウンターという盾が俺の前にあるのだ。


「ささ、君が何を見つけたのか教えてくれないか?」


 言われて俺は、砂状の鉄やマンガンを詰めた袋をカウンターの上に置いた。


「根拠はこれです。金属系ゴー……ゲレム発生防止のため回収したのですが、パッと見た範囲での回収量です」


 相手は、都合よくも専門家だったのだ。


「ほかにもこんな痕跡はあったかい?」


 ボサボサの頭をボリボリと書き、走り書きをしながら彼はさらに尋ねる。


「四体ほど討伐しましたが、他にはありませんでした」


 すると、彼は笑顔になってそれを手に取る。


「四体か……じゃあ結構探索したんだね? これだと、金属系“ゴーレム”は発生してないだろうね……。この量で考えられるのが1体……。2体、3体って可能性もあるね。生態系推論的に2体の可能性が高いか……。なんにせよよくやってくれたよ! ご苦労だったね!」


 そう言って、彼は金属を入れた袋を持って、事務仕事に戻ろうとした。


「少し待って欲しい。彼は報酬をもらっていない!」


 それをアザレアさんが止めてくれたのである。


「あああ! ごめんなさい! 忘れてた! 研究材料を見るとすぐこれだ……。そうだ、四体のカルサイト・ゴーレムを狩ったのだろ? それも、会計してしまおうか!」


 答え合わせができてしまった。カルシュタイン・ゲレムはカルサイト製だったようだ。

 しかし彼はなぜ英語風の言い回しをするのだろうか。


「さ、出して出して! 実直な冒険者には、誠実な支払いだ!」


 彼が言うから、俺はとりあえずしたいから剥ぎ取ったカルサイト(仮)をカウンターに出した。


「これです!」


 彼はそれを受け取って、一つ一つに札を貼っていく。全部が最上級ランクを示すものだった。


「うんじゃあ……えっと……5500アルケにしておこう!」


 かなり色がついていると思った。


「あれ? 高くないですか?」


「最高グレード買取で4500まで今は出せる。それと情報料で1000をギルドに出させるよ! それから、名前覚えておいてね。私はアダムって言うんだ。これからも、何かあったら私に訪ねてね!」


 しかしまぁ、この人もいい人だ。ちょっと熱中しすぎるくせもあるけど、その分天才、そんな擬似感情を持つのだろう。

 しかし、名前が英語風だ。なるほど、ほかの文化圏から来てるのか……。だから、ゴーレムって言ったのか……。


「生態系全般の相談してもいいですか?」


 この人の専門分野がどこなのかは、しっかり把握したい。


「うん、生態系学が私の専門だ! だからそういう問題は、私にね!」


 人脈に似たものがどんどん出来上がっていく。生態系学者と、最高ランク冒険者。


「思わぬ収入だな!」


 アザレアさんが笑って……。


「ですね!」


 だから俺も笑った。

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