第21話・興味の人

「へー、ゲームだとふにゃふにゃだぁ!」

「だって、リアルで運動が得意な人が強くなるとか、嫌です」


 VRゲームは運動苦手でも、思いっきり体を動かせる。それが良さだと思ってる。


「お、口調も柔らかくなってきたね!」

「ごめんなさい……。急に、慣れなれし……ひうっ!」


 何をやっているかというと、このアバターボディーのベンチマーク性能テストだった。

 ドリルさんがギャルなのかガリ勉なのか、それとヲタか……。それがもはや全くわからない。


 このつい昨日読んだ本に、“肉体接触によって相手の不安を和らげることが出来る”と書いてあったからこんな展開になっている。……らしい。


 とりあえず、その本はコミュ障ガチ勢の俺にもぜひ教えてもらいたいとして、どうやら本当だったみたいだ。

 ベンチマークとしてストレッチを行う、と言う口実でこんなことになっているのだが、導入が雑だ。ドリルさんは、そのテクニックの練習相手として俺を選んだようである。緊張しいだから、適任ではある気もした。


「あ、ごめん! 手が滑った……」


 本当は確信犯ではないかと思ってしまった。


「あ、いえ……」


 とはいえ、他人に資するとは嬉しいものだ。笑顔などいくら見ても見足りない。


「しかしなぁ、確かにそっか。ここだと男子にも普通に力で勝てるもんなんだ……」


 ゲーム内での努力は多少必要だ。だけど、ゲームというのはそれがわかりやすく成果に現れる。ルールが明確で、勝ち過ぎても別にペナルティが科されない。そこが、ゲームが逃避先になる理由だと思う。


「すかっとしますよね!」


 勝てない相手に勝てる世界は、爽快感が抜群だ。


「確かに! でさ、ほぐれたところで、どう? 気分は?」


 言われてみれば、すっかり気分はスッキリしていた。


「えっと……なんでしたっけ!?」


 だから、そう言って笑ってみた。もう悩みなんてどこ吹く風と消えたのだと。


「吹っ飛んだならいいや! んで、クロっち、いつになったらフレ迫って来るのかなぁ?」


 そういえば、放送の時にそんなことを言っていた。この人は覚えていたのだ。


「あ、じゃあフレ登録しましょっか! すっかり忘れてました!」


 こんな人なら、付き合ってて楽しいと思う。だから、繋がりがあったほうが絶対にいい。


「よしきた!」


 そんな話をしているうちに、チャットウィンドウを少し拡大して、ドリルさんの名前をタップ。そこから、フレンド申請を送った。

 相手が承諾してくれればフレンド登録は完了で、送った直後完了の通知がポップアップして消えた。


「つかさ、クロっち思ってたよりおっきーね! リアルもそのくらい?」


 ドリルさんは他人に対して好奇心が旺盛で、だからこそ付き合って癒されるのかななんて考えながら答えた。


「あー、もっと小さいですよ。ガチ勢に上り詰めるつもりなので、身長はリアルから+10%にしてます」


 だから、そこにヲタク特有の語り癖が悪い形に作用したのである。


「つまり……んー元の身長148か! まじかー! 可愛いかよー!」


 いや、即行で計算するなと申し上げたい。

 そもそもである。+10%にしていると漏らしてしまったのは俺だ。つまり、身長バレは俺が悪い。

 どうにか話題をそらさねば……。


「ガチ勢はですね、身長をリアルから10%しか変えられません。ここまで、さすがのウニーカ・レーテでも技術的課題は残ってしまいましたね!」


 指を立てて、体ごと顔をそらして言う。


「うんうん、だから10%なんだよね。ちっちゃくないもんね! ん? じゃあ未成年ガチ勢は+10%一択じゃね?」


 ただ、その好奇心はあまりに強いと思う。そりゃ、勉強もできるようになるわけだ。本当の意味で賢い人だ。ギャルだけど……。


「なんでですか?」


 自分で考えて知識を積み上げていく、そんなことをするこの人の考えを聞いてみたくなった。


「だってさ、特に男子、背が伸びるでしょ? 伸びても10%の誤差に収めるのは、それしかないかなーって!」


 うん、本当に賢い。なんというか、ギャルとガリ勉からそれぞれいいところをもって来ちゃいましたといった風格だ。


「確かに! じゃあ、バレるの時間の問題でしたね!」


 ……と、これまた良くなかったのだ。


「クロっち未成年かぁ……おそろー!」


 なんだろう、好奇心が凄すぎる。どんどん丸裸にされてしまうような感覚だ。


「う、うぐ……」


 ネットで個人情報はあまり晒さないほうがいいと思っているのに。


「ま、でもさぁ、だいぶ若いっしょ? 小中と見た!」

「高校生です!」


 あかん……。口から情報がどんどん漏れ出す。これはこれで恐ろしい。

 全く嫌な気はしない。だが、それだけに喋ってしまうのだ。誘導尋問の鬼だこの人。


「マ!? じゃあさ、なんで女の子と出会いたいのかなぁ?」


 意地悪に、ニヤニヤとした笑みを浮かべながら聞いてくる。悪意ではあるのだろう。なのに、なぜだか怖いと思わない。


「だって、優しいですし、それにほら、綺麗です!」


 言葉を出しながら、俺は気づいた。この悪意は、いたずらの悪意だ。


「食べちゃったりなんか……?」


 じゃあ怖くないに決まっている。ちょっとしたいたずらなんて、ひどいことにならない。それは、ずっと小さな時に学んだ。


「いや、カニバリズムとか怖いですよ……」


 ただ、食人嗜好はまったくもって俺には理解できない。なんというか、根源的な恐怖を感じるのだ。


「アハハ……。フツーね、食べるって別の意味を想像するんだよ」


 別の食べる。


「なんですかそれ?」


 意味が分からず聞き返すが、俺はドリルさんに言われてしまった。


「やっぱ小学生でしょ? いけないんだー、こんなゲームして!」

「高校生です!」


 だから俺は、全力で主張する。からかわれてる、でも悪くない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る