第22話・魔術師に捧ぐ攻略情報

 ……結局ショタ扱いである。リアル身長と耳年増であることがバレてしまって、これはもう挽回のしようがない。


「クロ君、おねーさんと狩りに行ってくれない?」


 よって、一人称がおねーさんへと変化した。

 むしろ耳年増であることは、バレたと言うより自覚させられたが正しい。俺がドキドキしているのは、女性相手だからと言うわけではないと思う。そんな風にドリルさんは言っていた。


「そうしたいのは山々ですけどね、俺今ヨワヨワですよ? 迷惑かけちゃうと思います」


 後々ツヨツヨになる予定ではいるが、真正面からだとアイン・ホルンに手も足も出ない程度の身体能力である。


「あ、そこは気にしないで! クロ君と狩りできたら、いろいろ喋ったりしながらできるじゃん。それにさ、知ってたりしない? 魔法で火力出す方法」


 ドリルさんは、なんと魔法型らしい。余計にドリル要素は見当たらなくなった。

 でも、弱くても構わないと受け止めてくれて、ついでにその質問法がダメ元っぽい。でもやっぱり怖いもので、訊ねてしまう。


「もし、知らなかったら?」


 知らなかったら、俺への興味を失ってしまうのだろうか。せっかくうまく付き合っていけそうなのに。


「知らないのかぁ……。ま、物理職だしねぇ……。切り替えていこう!」


 ただ、火力ジャンキーは検証ジャンキーだ。色々な方法でダメージがどこまで出るかを机上で計算して、ぶつけてみる。そんなことを俺はやっていた。

 幸いにも近くに魔法職がいて、彼女は支援特化になったが、攻撃特化にになる展望も見える程度には情報が集まっていた。


「実は知ってるんですけどね……」


 試したとバレたら、嫌われてしまうのだろうか。


「マ!? さすが、ガチ勢!」


 俺の危惧は笑い飛ばされた。眩しいほどの笑顔が、試されただとかそんなの考えてもいないと告げる。

 でも、それはそれで怖い。万に一つ、それを考えたときにどんな反応をするのか。

 要するに未知が怖い。相手の感情は、見えないからそれが怖くて仕方がないのだ。


「じゃあ……少し科学の勉強です」


 でも今は、少しだけ得意げに話すことができた。頼られているのは、嬉しいのだ。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 二人で森を散策した。この世界で動物の追跡を練習すると、多分現実で使えるのではないだろうか。そう思うほど、ここにもリアリティがある。

 ターゲットは、ファング・イーヴァ。猪型の魔物で、草食性、それから現実の猪同様に泥の鎧を纏う性質がある。


 それを発見すると、幸いにもこちらに気づいた様子はない。隠れて、不意打ちから始めることができる。


「ニードルからでいい?」


 魔法型のビルドの場合、火力を何段階かに分けて上昇させることができる。


「はい、その後すぐ、アシッドⅡで」


 このアシッドⅡがやばいのだ。ポイズンマジックスキルが内包する酸性毒なのだが、硝酸を何倍も凶悪にしたようなもの。このスキルの凶悪性は、硝酸っぽいという部分だ。


「行くね……。アイアンニードル……」


 魔法を唱えるドリルさんの声は小さく、不意打ちの前提条件を崩さない。


「アシッドⅡ・ストライク!」


 だが、その前提が失われてからは声を大きくする。

 この段階で、俺はその場を離れて、身を隠した。


「ファイア!」


 ドリルさんが所持していたスキルと、温存されていたポイントでできる最大火力が今のところこれだ。

 ファング・イーヴァは、瞬く間に燃え上がり、激しくのたうち回った。


 これが、アシッドⅡが危険極まりない理由。タンパク質がまるでニトロセルロース火薬になってしまったように燃えるのだ。金属と反応して水素が発生してしまうのは難点だが、針を刺すことによって、体内にもアシッドⅡが侵入している。おかげで、体内の肉までそうなっているのだ。


 でも、針は金属がいい。金属であると、次の段階がある。

 俺はその、熱による炭化面に振動を伝えるように殴りつける。

 すると、炭化膜は割れ、アシッドⅡはさらに浸透する。この炎が消えないようにするのが、このタイプの魔法使いへの最大のサポートだ。


「ぶもおおおおおお!」


 ファング・イーヴァはさらにのたうち回る。酸が神経を刺激し、次に炎が刺激する。その痛みは激烈のはず、おそらくそのせいでなのだろう。行動を束縛できる。

 おかげで安全に殴りつけることができるのだ。


「ドリルさん!」


 ただ、アシッドⅡは反応性が非常に高い。効果時間は短いのである。


「うん! アシッドⅡ・ストライク! アイアン・ニードル!」


 だから、適宜追加補充が必要だ。

 熱による炭化によって起きる物理脆弱性付与。ニトロ化っぽい反応による、炎脆弱性付与。最序盤の敵はこれに何も出来ない。

 だがしかし、俺の与えているダメージはダメージの最小単位だろう。さっき筋力にボーナス振ったけど、きっとそうだ。

 もう、反応お助けマンでいい……。


「もう死にます!」


 ファング・イーヴァがぐったりとしてきた。もう、痛みも感じてないのだろう。

 この撃破方法は、強烈なスリップダメージで削りきる方式。撃破の瞬間はわかりづらい。それに、撃破したらすぐに水をかけないと素材がダメになってしまう。

 そもそも既にだいぶダメになっている。

 そして、魂片が吸収された数値変動が起こった。


「水を!」


 叫んで、水魔法を頼む。


「アクア・ボール!」


 水魔法はだいたい消化用である。ただ、ニトロ化してしまった肉は、水の中でも燃える。酸を洗い流して、反応を止めるのが目的だ。


「なにこれえっぐ……」


 そんなこんなで、ファング・イーヴァのがいとも容易く撃破できたのである。

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