第23話・先生は男の娘

 ふと、ドリルさんは言ったのだ。


「あ、てかこれ放送でやることだったくない? まずったぁ……先に聞いとけば良かったぁ……」


 驚いた……。選択肢を渡さない語彙ごいがそもそも彼女にないのだろうか。


「えっと……じゃあ改めて放送でも言いましょうか! ちょっと告知出しておきますね! ご協力頂くファング・イーヴァを見つけたら放送開始で!」


 気が進まない思いもあるし、気が進む部分もある。少なからず、俺の放送を見に来てくれる人はいるのだ。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 結局、放送開始は追跡開始の途中だった。


「俺だ! 双剣だ!」


 強く踏みしめて仁王立ち。視聴者さんの前、堂々とした思い描くままの自分を投影して……。


「ブフッ! ちょ……クロ君、態度違いすぎ……」


 いろいろと話しているうちに、ドリルさんにはもう軽口を叩いてもいい気がしてきた。向こうがグイグイ叩いてくるのだから、こっちが許されないなんてありえないだろう。


「ちょ! ひどいです! 放送ではトッププレイヤー双剣なんですから!」


 笑われては立つ瀬がないのである。とはいえ、こうやって言い返せるのはなんとも気持ちがいい気がする。


「ごめんって……でも笑わずにいられないって!」


 そりゃ放送はある程度コミュ障を抑えられる。だって、人間そのものの姿は見えないのだ。


ダメじゃん寿司ズ:ダメじゃん、視聴者女子に笑われちゃってるじゃん。

ฅにゃん皇帝ฅ:寿司さん、それ言いたくてその名前にした?

ハニー・シルバームーン:クロ君、すっかり放送になれたねー!

シュバルツカッツェ:おねショタ性癖に開花してから来たんだけどなぁ……

闇を駆ける黄金の閃き:性癖捧げんなwwwwww

ダスクえっち:いや待て、背が高くても可愛いではないだろうか。

Seven:わかる……ってなんかデジャヴ……


 シュヴァルツカッツェ、長いので直訳して黒猫としよう。

 黒猫さんからの、コメントが昨日俺が男の娘扱いされ始めた時と同じ人が同じ順番なのだ。変な奇遇もあったものである。


「まぁ、おいておいて……! 今日は、フィールドモンスターの追跡方法と、魔法型で双剣の思う火力ジャンキービルドをご紹介します!」


 それが目的だ。

 そして、そのビルドに恐れずポイントを突っ込んだのがドリルさんである。


「よろー! 最強ドリルでーす! 視聴者の中にガチムチ兄貴がいたらアタシのところに来なさい!」


 おぉう……この人割とヲタだぞ。ヲタに優しいギャル性を持ったお姉さんと思っていたら、ヲタで優しいだったのだ……。

 実際の元ネタは、俺より前の世代なのだが、それはもはや定番の一つだ。とある動画サイトの全盛期のネタらしい。

 でも、もはや慣用句的ななにかだと思う。


とワイ、ライト:おまwwドリル要素そこかよww

腐海の魔女:(ΦωΦ)フフフ……お仲間

シュバルツカッツェ:クロ君、その人気をつけてね!


「あ、男の娘は自分でカワイがるシュギだから安心していいよ!」


 絶対ふざけてる。目がふざけてる。


「ひええ!?」


 なんかそう言って欲しそうな雰囲気である。


ダメじゃん寿司ズ:クロ君その人とつるんでたらダメじゃん! 襲われるじゃん!

ハニー・シルバームーン:逃げて! 保護してあげるから逃げて!

闇を駆ける黄金の閃き:お前もあぶねーだろwwww

ฅにゃん皇帝ฅ:全ての男の娘の初夜権は皇帝であるにゃんこが有するものとする。

Seven:カオス!!!


「……ま、説明進めましょうか!」


 気を取り直していこう。このままだと放送が終わらない。晩ご飯までに終わらせたいのだ俺は。


「ごめん、脱線させすぎた!」


 手を合わせて、謝罪するドリルさんに俺はとりあえず笑顔で……。


「むしろ助かります! 盛り上がりましたし!」


 気にしない旨を伝えた。

 一拍おいて、俺は地面に落ちている塊を手にとった。


「ドリルさん、この痕跡の主はなんだと思いますか?」


 復習だ、先ほど一体目を見つけるときに前もって教えていた。


「イーヴァ系! 硬度から、ファング・イーヴァの可能性が高め!」


 上位のイーヴァ系はもっと泥が硬いのだ。石かと思うくらいに。それが皮膚を覆っているから、初手ニードルが難しくなる。混在する場所もあるため、見分け方も知っていたほうがお得だ。


「大正解です! どっちに向かったと思われますか?」


 それの見分け方も、さっき教えたのだ。


「ぶつかった衝撃で剥がれて進行方向に落ちるから、えっとこっち?」


 ドリルさんは自信なさげに指をさすが、まったくもって大正解である。


「自分の指の先、よく見てみてください!」


 そこに、ドリルさんの答え合わせができるものがある。

 ゲームだけあって、難易度はリアルより相当下がっている。よく探せば、見つけてくださいと言わんばかりなのだ。


「あ! こすり痕!」


 つまり、ファング・イーヴァの行動はこう予測できる。木にぶつかって鎧が剥がれてしまったので、綺麗にこそげ落として浴びに行く。その途中の痕跡だ。


「つまり、大正解です! 一度でよく覚えました!」


 ちょっと得意な気持ちになる。そしてその痕跡の先には、必ず居るのだ。

 死んだエネミーの痕跡は、ゲームシステムがご丁寧に消してくれる。

 もちろん、ランダムに歩いても見つけられるが、これはやったほうがお得だ。

 痕跡の主を探す道中で、ランダムな出会いも期待できるのだ。ちょっとマニアックなお楽しみ要素である。


「うへへ……って、なんか目覚めそう……」


 なんて、ドリルさんはだらしない笑みを浮かべるのであった。


――――――――

※お願い※

 ニトロ化した物質は極めて不安定で、爆発の危険を伴います。

 また硝酸も強力な腐食性を持つため、取り扱いはとても危険です。

 読者様ご自身の安全のため、実験は絶対に行わないようにお願いいたします。

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