第37話・始まりの剣

「ナイスバルク!」


 先生はシュールだ……。敵を受け止める時の掛け声がこれなのである。

 とりあえず俺は、持っていた2ポイントを技量と敏捷に1ポイントづつ振り分けた。


 ダガーは初期攻撃力は低いが、刺剣カテゴリと遜色ない技量補正をもつ。また速度によるダメージボーナスも発生するため敏捷も有用なのだ。

 アイン・ホルンを差し貫いてから、俺は言う。


「ナイスです! キャップ!」


 だが、先生は今はアメコミのヒーローなのだ。


「ハハッ! 君もナイスさぁ! 行くぞ! マッスルブレイカー!」


 煌く、真っ白な歯を輝かせて、爽やかな笑顔でアイン・ホルンの頚椎を破壊した。

 うん、えぐい……。


「俺、居る意味あったかな?」


 という点はもちろん疑問である。


「クロくんが、傷をつけてくれたおかげですよ」


 あ、急に先生が戻ってきた……。

 でも、こういったものもゲームの楽しみ方の一つだと思う。

 技名を叫んだり、自分の憧れになりきってみたり。楽しみ方なんていろいろある。

 ロールプレイングだ。要するに、ごっこ遊び。


「本当かなぁ?」


 先生の筋力だと、アイン・ホルンの頚椎は一撃で破壊できるはずだ。


「もちろん! いてくれないと、この戦い方もわかりませんでしたし、一人ヒーローごっこは寂しいです!」


 そんな話をしていた頃である。視聴者たちから予想外のコメントが投げかけられた。


闇を駆ける黄金の閃き:そういえば、Lv10になるとサブキャラクターが解放されるみたい。

ฅにゃん皇帝ฅ:ぬ!? クラフトやってる場合じゃねぇ!


 にゃん皇帝さんは、正式版でも余り物錬金術師のようだ。

 しかしLv10でサブキャラ開放か……。


「あ、じゃあおすすめは、メインキャラをある程度進めてサブキャラクターでみんなで指数関数作りましょう! 指数関数の場合、チュートリアル突破にオススメ武器は大盾です! 詳しいことは多分、マッソー田という人のアーカイブに残っていると思いますよ!」


 それなら、初心者でも指数関数ビルドをスタートできるはずだ。とはいえ、プレイヤースキル特権が減ってしまったのは少しだけ残念である。

 それでも、俺たちが最強になる。これは決定事項だ。絶対に譲ってなんてやらないさ。


メディナ:やぁ! 人見知りは治ったのかい?

ヒュギエイア:放送見に来てびっくりしちゃいました! こっちも今レベリングしてますよ!


 懐かしい名前だ……。


「二人共気をつけて! 俺たち神話になってる!」


 二人共βの時のパーティーメンバー。戦場の支配者と慈悲の癒し手だ。


「あ、アレですね! アザレアさんの言っていらっしゃった」


 先生はピンと来たようだ。四柱の戦神は俺が所属していたパーティーのこと。


卍最強ドリル卍:え? 神話?

ダメじゃん寿司ズ:ダメじゃん、フリー素材扱いじゃんw

メディナ:そうなったのか……。全く、粋なことするね!

ヒュギエイア:あの、βと同じ名前にしてしまったのですが……。


「サブキャラに逃げるしかない!」


 と、俺は言っていたのだが、先生はふと呟いた。


「あぁ、ヒュギエイアさん! すごく、アザレアさんと親和性が高いですよ!」


 先生は先生である。教養は果てしなく高いのだ。


「どういうことですか?」


 その教養に俺で俺は、いろいろと知ることになった。


「アザレアはギリシャ地方で産まれた植物です。して、ヒュギエイアさんは古代ギリシャ神話にちなんで名前をつけたのでしょうね? ですので彼女たちの民族が、あなたたちβテストの前線プレイヤーを信仰する民族として選ばれた。なんて、妄想できます!」


 この世界では、教養も楽しむための要素に取り込まれている。もちろん、そんな要素がなくても全然楽しめるゲームだ。でもあればさらに。


「あの……もしかして、テロス・タクシドやプロフィスもギリシャ関連だったり?」


 もしそうであれば、それぞれの由来が分かったりするかもしれない。そうやって解き明かすのも楽しいと思う。


「あぁ、多分なのですが、旅人の終着点と最初の友人ですね!」


 すごい知識量だ。この先生はギリシャ語を喋れたりするのだろうか。

 そして一瞬後、俺の視線はアザレアさんからもらったダガーに吸い込まれた。プロフィス、最初の友人。これは、アザレアさんが最初に手にした武器だったのではないだろうか。だとすると、貰ってはいけなかった気がする。


ฅにゃん皇帝ฅ:旅人の終着点! かっこいい!

メディナ:そんな由来だったんだ? ギリシャ語は流石にね……。

ヒュギエイア:素敵ですね!


 βの神話に取り込まれた者たちは、その由来をしれたことに大いに盛り上がった。

 ただ、俺はダガーを見つめて震えている。


「クロくん。どうしました?」


 先生に尋ねられて俺は答える他ない。


「これが……プロフィスなんです……」


 慌てふためいていたのだ。最初の友人をもらってしまったのだから。

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