第35話・恨めしや日緋の桜
「ささ、放送を起動して、私に肉弾戦士のビルドを教えてください! 私はまだ最初のスキルすら取得していませんから!」
筋力極振りだとそれでチュートリアル突破できるのだ。指数関数の初期の貧弱とは全く違う。最終的に追い抜けるとはいえ、ちょっと劣等感を感じた。
「先に聞かせてください。先生は殴ったり蹴ったりで素早く敵を倒すのと、敵と取っ組み合って味方を守りながら戦うの。どちらがいいですか?」
アメコミヒーローだったら、どっちかといえば後者。ただ、それが俺の憶測に過ぎなかったら間違った情報を与えてしまう。
「味方を守りながら戦うとは! まるで私の憧れるヒーローそのものです!」
憶測は間違っていなかった。そして、先生は気持ちが燃え上がったようで、ガッツポーズをしたのである。
「とりあえず、冒険者ギルドに登録してから、実地演習と行きましょう!」
俺はそう言いながら、放送を起動した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
冒険者ギルドに着くと、やはりアザレアさんが声をかけてくる。俺にとってはもはやこの場所に訪れるたびに発生する固定イベントだ。
「やぁクロ! 君の言う先生とは、そこの屈強な男のことか?」
別れ際、先生に会うと言って会話を切り上げたのだ。
「はい! 彼が俺の先生で……」
と言ってもどういっていいかわからず先生と言ってしまったのだ。
「キャップと言います! まぁ、この世界のことはクロくんの方が詳しいのですけどね。あなたのお名前も是非お伺いしたく」
先生は俺の知り合いの誰と会わせても恥ずかしくない。むしろ、俺のほうが礼儀作法に関して劣っているくらいだ。
「屈強な上に紳士か! 実に好ましい! 私はアザレア、彼の友人さ!」
アザレアさんは満面の笑顔で先生に言ったのである。
「友人!?」
ただ、どう思われているのかはまだ模索中だったのだ。そこをはっきりと友人と言い切られて、びっくりしてしまった。
「おい、違うとか言ってくれるな。おそらく私は泣くぞ!」
それは困るのだ。俺はアザレアさんが友人と言ってくれて嬉しかったのだ。
「友人! 友人ですよ!」
慌てて肯定する。
「もう一声!」
アザレアさんはどこかワルノリしているように感じる。
「し……親友です!」
恐る恐る行ってみると、アザレアさんは肩を組んできたのである。
「ははは! よくぞ言ってくれた! 心の友よ!」
やっぱりアザレアさんは欧米人なのではないだろうか。そのくらい、心の距離をグッと詰めてくる。
だけど、欧米人のようなすぐ口に出るコミュニケーションは俺のようなコミュ障に優しいのだ。
「しかし、クロがメンターになるのか? いくらなんでも早すぎないか?」
低レベル指数関数がメンターになるのはいくらなんでもだ。
「えっと、説明が難しいのですが、俺は知識だけはあるんですよ」
この関係をどう説明しようかと、悩んでいると向こうから説明に必要な言葉が帰ってきたのだ。
「前世持ちのプレイヤ族か! 双剣、鉄壁、支配者、癒し手、余り物錬金術師。ここら辺を知っているだろう?」
さらりと、βの俺の名前がアザレアさんの口から出た。ヤバイ、自己肯定感が上がる。
「双剣が前世です……」
ただ、ついでにちょっと照れくさくもあった。
「す、すまなかった!!! これまで数々の無礼、どうか許して欲しい! 戦神よ! 破壊の化身よ!」
アザレアさんは、平伏したのである。
「神なの!?」
β時代のプレイヤーのことがこの世界に引き継がれているようだ。神話として……。
「失礼、双剣というのは?」
すっかり先生を放置してしまった。
「あ、ギルド登録しながら話しましょう!」
そう言いながら、俺は先生をカウンターに連れて行った。
先生は俺とアザレアさん、それに受付嬢さんに囲まれて登録をすることになった。
「双剣はβテスト時代の俺のことなんです」
これが、プレイヤー側である俺の見解。
「β218年、四柱の戦神は我々人類の生存域を拡大させた。破壊の双剣、守りの鉄壁、戦場の支配者、慈悲の癒し手。私は、彼らを信仰する民族なのだ」
ピンポイントでなんで俺をβの俺を信仰する民族と出会うのだろうか。もう、なんだか。ヒヒザクラの中央制御AIがお茶目機能を使ったようにすら思える。
しかし、俺たちが生存域を広げたことになってるとは。
「クロくんは神話の登場人物でしたか……」
先生は、それはそれでと楽しむつもりのようだ。
「クロが嘘をつくようには思えない。本当に破壊の化身、双剣なのだろう。力を取り戻す旅をしているのだろう。私ごときがメンターになれるはずもなかった」
照れくさいので、そこらへんで本当に勘弁して欲しい。
しかし、俺たちがまるでフリー素材だ。光栄ではあるが、本当に照れくさい。
そういえば、βの利用規約にそんな項目があった気がする。
「どんな神様ですか?」
先生は契約書を書きながらも雑談をしている。
「曰く、少女のように儚げで、されど戦う姿は苛烈そのもの。半神の龍を下した英雄であると……」
やめてくれ。顔が火を吹いてしまう。
「本当に双剣様そのものであったなら、神話の再来ですね」
頼むから、受付嬢さんまで乗らないでくれ。先に神話の話だと聞いておけばよかった。お目にかかったことがあるくらいでとどめたのに……。
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