第3話・刹那のクオン
太陽は割とバカにできない。やることのない引きこもりは基本暇で、俺はずっと絵を描いている。絵に関して、少し悩みがあって、その克服のためなのだ。
悩みというのは、男の顔が絶望的に下手なのだ。俺が書こうとすると勇ましいマッソー田の顔だけが男の娘になってしまう。だから、マッソー田ばっかり何度も何度も描いている。それこそ、恋人かなにかなのではないかと思ってしまうほど。
うん……恋人になるのは御免こうむる。俺の恋愛対象は女性だ。女性なら年上年下なんでもカモンな、せっそーなしである。
で、太陽なぜバカにできないか。それはこの練習作業を楽しくこなせていることにある。マッソー田本人どころか、パーティーを組んだみんなには絵を見せられずにいた。だけど、これができたら見せられる。きっと喜ぶだろうという、幸せな妄想の方が勢いよく広がるのだ。
そんな作業をしていると、件のマッソー田からThisCodeのメッセージが届く。マッソー田はLinneアンチらしい、だから俺たちのパーティーはThisCodeを使う。
『よう、クオン! 今、ウニーカ・レーテの攻略サイトを見てたんだ。したらさ、お前のビルドがプロ専用機扱いされてて、火力職のビルドでお前のビルドを改変したものが一般に多かった。わかってないよなー! AIが提案してくれるビルドをもとに、自分の理想を重ねて行くのが醍醐味なのにさ。それと、お前のビルドの改変使ってる奴、地面に足がくっついてたよ』
クオンは俺のキャラクターネーム。ウニーカ・レーテは、俺たちがやってたあのゲーム。エスペラント語らしい。作った奴は、厨二病に決まってる。
ビルドはAIがサポートして一緒に考えてくれる。取得したスキルのほとんどは、AIがレベルアップの時に提案してくれたものだ。俺のためにAIが生成してくれたスキルもある。俺のビルドはほぼ空中戦特化だ。地面に足がついていると、弱点部位への張り付きが失敗していることになって火力が一気に落ちる。
この生成されたスキルはほかのプレイヤーも取得可能で汎用スキルより必要ポイントが高い。と言っても強力で、誰が使ってもポイント通りには機能する。
ただ、生成の原因を作ったプレイヤーが使うと、支払ったポイントよりも1.5倍ほどの効果を発揮する……と思っている。1.5倍なんて感覚だ。根拠はない。
『激しく同意! ユニークに使えてない! せっかく、ウニーカなのにさ!』
ウニーカ・レーテ、つまりユニーク・オンラインなのだ。エスペラント語なんて使ってるくせに、翻訳すると超直球だ。
『だよなー!』
『でさ、俺攻略配信しようと思うんだ。タンクのいぶし銀を見せてやりたい!』
メッセージは二つに別れて来た。
マッソー田のタンクはかっこいいと思う。欲しいときに欲しいところに攻撃を誘ってくれる。それはまるで、少女漫画のスーパーダーリンのようだ。
それだけではない、後衛たちにとっては要だ。マッソー田が居なきゃ全てが成立しない。きっとその背中は大きく見えるだろう。
『俺はお前に魅せられてるよ。だから賛成! 俺もお前の視点見たいのもついでにな!』
それは戦略を向上させるかも知れない。みんなでカッコつけてみんなで気持ちよくなる一手になりそうだ。ゲームなんてそんなもの、気持ちよくなるためのものだ。
『お前もや・ら・な・い・か?』
俺は、それをマッソー田に言おうかと思っていたところだった。だが、そんな言い回しをされると、言いたくなる。
『アッーーー♂』
定番を……。
『いや、じゃなくて俺もやるよ。プロ専用機使いの運用法魅せてやる! んでさ、すり合わせよう! 俺たちの最善を! 他二人も誘おう、来た時にでも』
魅せプは気持ちいいのだ。見られる側も観る側も。
そこにはプレイの理想があるのだ。形になった理想は、見ていて気持ちがいい。タンクの理想マッソー田を見て気持ちよくなっている俺が言うんだ、間違いない。
マッソー田は、戦いの動かざる動かし手なのだ。
『俺もそのつもりだ!』
四人でやろう。配信じゃなくてもいい。動画だけでも共有できれば、それで満足。配信するのなんて、俺とマッソー田だけでもいい。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
やがて魔術師と僧侶、それぞれの中の人がチャットに現れる。
『ログ読んだよ。いい考えだと思う。だから言うまでもないが、私も混ぜてもらおう。そもそもこのままでは攻略情報を独占してしまう。恨まれかねないからな』
魔術師の言うことは最もで、ゲームのAIなんて得てしてバカにされるものだ。ビルドサポートAIがそこまで高性能だなんて、誰も思わない。
だからこそ、AIの高性能っぷりを喧伝する輩として俺たちは必要だろう。
『そうですね! 緊張するけど頑張ります!』
僧侶さんはいつも可愛らしい。なんだか、小動物のような愛嬌を感じるのだ。
『よっし、配信しながら全員でやろう! んで、ビルドどうする?』
マッソー田が訊ねるから、決まっていた俺はいち早く答える。
『指数関数型に手を出すぞ! 最終的には最強のはずだ』
最終的には最強、だが誰もできる気がしないビルド。それが指数関数型。
『マジかよ!?』
『やめときなよ! スライム相当がボスに変貌するぞ!』
『あの……ご武運お祈りしています……』
だから誰も手をつけない。スライム相当のモンスター相手ですら、ダメージを与えるのに不意打ちが必要なほどの低ステータスで始めることになる。
『おぉ!? 上等じゃねぇかよ! やってやるよこんちくしょー!』
これもまた定番。伝わるとわかっているからこの返しができる。
『www まぁ、無理ならリセットでいいしな。俺も指数関数でタンク目指してみるか!』
マッソー田も乗ってきてくれた。じゃあ、余計にやるしかない。やろう、心が折れるまで。
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