第42話 罠

 クリニックから出ると、南条はすぐにスマホをとり出し三ツ矢へ連絡をとった。


「手に入れましたよ! ヘドロ島の情報」


 夜道で声はひそめていたが、興奮のせいで目だけは異様に大きく見開いていた。


「彼らの戦力は傭兵頼みだそうです。しかし市民からは信用されていません。リーダーも不在のようで、かなり疲弊していました。病院も街に一つしかないそうです」


 いっきに喋る。そのあと三ツ矢の話に相づちを打つ南条だったが、なぜかスマホを渡してくるので夜は困惑した。


「よう小僧、がんばっているみたいじゃないか」


 その声は上機嫌だった。さぞや楽しいことだろう。自分で手を汚さず、温かい部屋から他人をこき使うのは。


「もう十分仕事はした」


 ウパニシャッドたちが勝手に喋ったのだが、それを教える気はなかった。


「よくやった、と言いたいところだが、その情報は罠だ」


「なんでそんなことがわかる」


「いきなり南条を信用するほど連中もバカじゃねえ。どうでもいい情報を渡して、そいつが漏れるのか試したんだ。南条は失格だな」


 三ツ矢は鼻で笑った。もっとも、と続ける。「おまえもおれを騙そうとしている可能性があるがな」


「ひとの姉を人質にしておいてよく言うな」


「そう怒るなよ。それよりいいアイデアを思いついたんだ。ヘドロ島の医療を停止させろ」


「なんでそんなこと」


「こっちもテストしてやる。犬として忠誠心を見せてみろ」


「できない」


「愛する姉さんが、中国マフィアの慰みものになってもいいのか?」


「クズ野郎め」


「三日やる。いいか、島の医療を停止させるんだ。そうすりゃあ住人どもは自発的にヘドロ島から出ていく。一つしかない病院だ。方法は自分で考えろ」


 通話が切れた。


 勝手なことを言いやがって。


 スマホを返すとき、南条から心配されてしまう。よほど深刻な顔をしていたんだろう。その自覚はあった。


 ヘドロ島の医療を確実に停止させる方法、それはすぐに思いついた。


 たった一人の医師を殺害するのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る