第40話 権力の犬

 約束の二十時。


 クロネコの船で、ヘドロ島の漁港へ戻った。


 向こうでは桜花が、昨晩と同じワンボックスカーで待っていた。


 次に向かったのは、神楽にある風間の事務所『かざま法律事務所』だった。


 一人で南条を案内するように桜花から指示された。夜は車から降りると、南条を連れてオフィスのあるビルの二階へと向かった。


「お待ちしておりました、教授」


 久しぶりに会った風間は、気合の入った赤色のネクタイを締めていた。


「あなたに正義を売らせてください」


 金色の名刺を人差し指と中指のあいだに挟み、頭を下げながらそれを差し出した。


「はじめまして教授。私は金槌社ゴールデンハンマーで顧問弁護士を務める風間といいます」


 八畳くらいの応接室が狭く思えるほど、風間はオーバーな身ぶり手ぶりで、南条を熱烈に迎え入れた。

 

 名刺交換が済んだ頃合いを見計らい、女性スタッフが茶を運んできた。


 南条はがちがちに緊張していた。風間が喋りまくるあいだも、ひっきりなしに茶を飲んだ。


 そんな南条だったが、さすがに三億円の詰まったキャリーバッグを見せられたときだけは、満面の笑みを見せた。


 しかし南条は決断を保留した。もっとヘドロ島について知ってから決めたい、金だけの問題ではないときっぱり告げた。


「いいですとも」


 風間も承諾した。


 こうなることも想定済みだったのだろうか。にこやかな表情のまま、風間は南条にこう勧めた。


「都時代に閣僚や都知事などVIPも宿泊した豪華なゲストハウスがございます。ぜひ宿泊していってください」


「ほう、それは興味があります」


「ご希望でしたらもございます。なんなりとお申しつけください」


 風間はいやらしい笑みを浮かべ、親指と小指で電話のジェスチャーをした。


「その前に街を観光してもいいですか」


「ぜひぜひ。あなた様が守ることになる街です」

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